ずぶ濡れの女の子(千葉県) | コワイハナシ47

ずぶ濡れの女の子(千葉県)

うちの事務所に前世が滝沢馬琴だと自称する人物がいる。(以下、『馬琴』)。筆者がプロデュースするオカルトニュースサイト「ATLAS」でライターをやっているのだが、風変わりな男だ。まだライターとしてデビューして一年程度の駆け出しで、ライター業だけでは食べていけないため、数々のアルバイトを兼任している。馬琴は二十年ほど昔、松戸市で新聞配達のアルバイトをしていた。

馬琴が勤務していた新聞配達店は、印刷所から新聞が回送される時間が早く、深夜に仕分け作業に入り、夜中の二時には配達がはじまった。馬琴の担当エリアは住宅街であり、その日は横殴りの雨が降り注いでいた。

「こんな日は、早く新聞を配り終えて店に帰りたいなぁ」

憂鬱な気分で新聞を配り続ける馬琴。順調に配達が進み、とあるマンションに到着した。

(これであらかた目処がついたぞ)

マンションの新聞配達の方法は二通りだ。エントランスに入り、入り口横の部屋の番号が振られた郵便受けに新聞を入れておく方法と、エントランスに入った後、そのまま共有の入り口を通過し、各部屋のドアについた新聞受けに投函していく方法がある。

そのマンションは前者の方であった。降りしきる深夜の雨をかき分けるようにエントランスに入った馬琴。

「もう一息だ」

エントランス内は静まりかえっている。目の前には暗証番号を入れないと開扉しない入り口があり、入り口の横には部屋ごとの郵便受けがずらりと並んでいる。自分が配達している新聞を契約している部屋の番号を確かめながら、新聞を丁寧に入れていく。その時、背後で音がした。グイーン。エントランスの自動ドアが開いた。雨音が大きく聞こえた。誰かがスタスタと入ってきた。

「えっ……こんなに遅く?」

肩越しに人の姿が見えた。全身ずぶ濡れの人、女の子だ。

花柄の洋服に身を包み、頭から雨水を垂らしながら歩いていく。年の頃はおそらく七、八歳、かわいらしい足取りで歩いていく

(親御さんと一緒かな……)

そう思ったが一向に保護者が入ってこない。冷たい汗が背筋を伝った。

(まっ、まさか……)

ゆっくりと振り返ると、そこには……、誰もいなかった。肩越しに女の子の姿を確認してから、時間にして数秒間。暗証番号が必要な入り口が開いた様子はない。いや、そもそも入り口が開いた場合、音が出るはずだ。またエントランスから再び外に出たのか、だとしたらエントランスの自動ドアの開く音が聞こえるはずだ。

「こっ、これは……」

馬琴は思わず息を飲んだ。エントランスの外からかわいらしい足跡が続き、暗証番号付きの入り口の前で消えていた。

その日は転がるように逃げ帰った馬琴であったが、後日その界隈に住む老人から聞いた話によると、数年前、近所にある池で小学校低学年の女の子が水死したという。もちろん、水死した女の子が、そのマンションの住民だったかどうかまでは分からなかった。ずぶ濡れの女の子は今夜もさまよっているのだろうか?

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