気にしない(千葉県) | コワイハナシ47

気にしない(千葉県)

現在は青森県八戸市に在住しているAさんは、かつては千葉県のある会社に勤めていた。その会社はデザインと印刷業務を請け負っており、以前は新京成線の某駅の近くに所在していた。当時はまだ長時間残業が問題となっていない時代だったため、毎晩のように誰が会社に居残りして残業をやっていた。今で言うならば「ブラック企業」といえるかもしれない会社だった。

そんな会社の中で、不気味な噂が流れるようになった。

「この会社、幽霊がいるよね?」

「やはりそうだね。絶対いるよね」

奇妙な現象が起こるのは、必ず誰かが一人で残業しているときに限られた。その会社は、駅から程近い集合住宅の一室を事務所にしていた。事務所内には二つの部屋があり、部屋同士は内線電話で結ばれていた。ある人が一人残って深夜まで残業をしていると内線電話が鳴った。リーン、リーン。隣の作業部屋には誰もいないはずである。深夜の事務所に鳴り響く電話の呼び出し音。

(誰が電話をかけているんだ?)

その人は怖くて電話には出られなかった。仕事も早々にその日は帰宅してしまった。またこんなこともあった。ある人が残業を終えて帰ろうとした時、

「べちゃべちゃ、ふふふふふふ」

おしゃべりをする声が隣から聞こえてきた。

(あれっ、まだ誰か残っていたんだ)

そう思ったその人は、隣の部屋に向かって挨拶をした。

「おっ、お疲れ様で……」

言葉が止まった。隣の部屋には誰もいなかった。……。静まり返る無人の部屋。その人はいい知れぬ恐怖を感じて、転げるように会社の外へ飛び出した。

「社長。この事務所、幽霊が出ますよ」

「お祓いをしてくださいよ。社長」

社員たちは口々に、社長に幽霊の存在をアピールした。しかし、社長は全く気にせず、半笑いでうなずくだけである。

「んん、幽霊が出るんだね」

社長は全く幽霊の存在を信じてなかった。いや、存在は信じていたかもしれないが、会社にとって一番怖いことは倒産であって、幽霊のことまでは気が回らなかったのかもしれない。すると、一年ほど経つと心霊現象は発生しなくなった。

「『幽霊を信じない心』は、幽霊に打ち勝ってしまうのだよ」社長はにっこり笑ってそう言った。

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