一人ぼっち(千葉県) | コワイハナシ47

一人ぼっち(千葉県)

この話は、今から二十年ほど前の体験談である。

宮城県出身のSさんは、無類の心霊マニアであった。高校時代から宮城県内各地の心霊スポットや廃墟を数々探索した経験を持っている。Sさんは千葉県内に所在する大学に進学したのだが、大学生になっても心霊マニア熱は冷める気配がなかった。

「よし、今度は千葉のヤバいスポットを全部回ってやるぜ!」

そう決心したSさんは、同行の仲間たちと千葉県内の廃墟や心霊スポットを回ることにした。特に友人のAくんは、京都出身で高校時代は京都中の心霊スポットを回っていた、Sさんと同じ心霊マニアであった。ある日、大学の仲間四人と集まったSさんは、四街道市から仲間の一人が運転する車に乗って、深夜十二時から心霊探検に出かけた。最初、千葉県内では有名な心霊スポット・雄蛇ヶ池に行く予定であった。すると仲間の一人がこんなことを言い出した。

「でもさぁ、廃墟もいいよなぁ。廃墟の『活魚』って場所もあるよ」

「場所的にも離れてないよね。活魚に行ってから雄蛇ヶ池に行かないか?」

(活魚とは、「油井グランドホテル」という廃業した施設の跡地のことで、「活魚」と書かれた看板が備え付けられていることが通称の由来となっている)

こうして急遽行き先は、廃墟スポット・活魚に変わった。活魚は小さな森に囲まれた場所に建っていた。一行は森の外に車を止めて、トボトボと森の中を歩いて活魚に向かった。手には闇を照らすための懐中電灯を持っていた。異様なムードが森全体から漂ってくる。仲間のうちの二人が急に怖じ気付いた。

「や、やっぱり俺たち、車で待っているわ」

逃げるように車に引き返した二人。Sさんは心霊マニアのAくんと二人で廃墟に挑むことになった。森を抜けて活魚の前にたどり着くと、思ったより小さな建物で、中に入れないよう柵で覆われていた。

「これ、どこから入ればいいのかな?」

AくんとSさんは、誰かがこじ開けたような進入口を発見した。「ここから入ればいいよね」二人はそのルートから廃墟に進入した。雑然とした室内、壁のあちこちに落書きが見える。様々な品物が散乱し、多くの侵入者の痕跡を見ることができた。

「意外とたいしたことないなぁ」

「二階に行ってみるか」

二階に上がってみると、思ったより室内の状態は良く、壁には昭和時代の古いポスターが貼られており、ベッドやドアも営業していた当時の面影を残していた。少しテンションが上がってきたSさんは、ベッドをひっくり返したり、次から次へと二階の各部屋を回っていった。

「よし、次の部屋に行くぞ」

Sさんは、最初のうちはAくんに声をかけながら進んでいたが、だんだんとテンションが高くなってくると、夢中になって次から次へと部屋のドアを開けていった。

「あのさぁ……」

ふと振り返るとAくんの姿がなかった。闇夜にぽっかりと浮かぶSさんが持つ懐中電灯の明かり。

(なんだ? あいつ先に降りちゃったのかな?)

そんなふうに考えながらも二階の探索を続けた。さほど変わったこともなく探索は終わり、彼は一階に降りてきた。

(どうせ一階で待っているんだろう)

そう思いながら一階を探したが、Aくんの姿は無い。Sさんの懐中電灯の明かりが闇夜に寂しく揺れている。

(廃墟に俺一人かよ!)

そう思うと急に怖くなってきた。どうにかこうにか入ってきたルートを見つけだして外に出た。その瞬間、

ガシャーン!

活魚の建物の中から、何かを引き倒すような音がした。

(やっ、やばい!)

転がるように活魚の敷地外に出たSさんは、森の中の道を彷徨さまよいながら歩き、ようやく車を停めた場所にたどり着いた。

「えっ、なんで?」

そこには車が停まっていなかった。Sさんは、たった一人闇の中に取り残されてしまった。ぼう然としながらもその場に十分ぐらい立ち尽くしていると、車が戻ってきた。

「お前、車に乗ってなかったのか?」

車を運転していた友人が素頓狂すっとんきょうな声を上げた。身を固くするSさん。

「いや、俺一人で廃墟にとり残されてたんだけど……」

一緒に廃墟の中まで侵入したAくんの話によると、二階を探索中、Sさんからこんなことを話しかけられたという。

「もう帰ろう」

そう言われて、二人で活魚の外に出て車が停まっている場所まで戻ってきたと言うのだ。しかも、車内で待っていた二人も、AくんとSさんが談笑しながら森を抜けて車に歩いてきたのを確かに目撃したという。そして、車にAさんとSさんが乗り込んだので車を発進させたと言うのだ。しかし、いつもは饒舌じょうぜつなSさんが全くしゃべらない。疲れているのかなと思った運転手は、ふとバックミラーを確認した。

「いない」

さっきまで座っていたはずのSさんの姿が消えていた。隣で居眠りをしていたAくんをたたき起こし、車の中をくまなく探したがどこにもいない。とりあえず車を停車した場所に戻ろうということになり、引き返したところ、ばったりSさんと遭遇したと言う。

一足先にAくんと森を歩いて車に乗ったSさんの姿をした者は、何者だったのだろうか? ドッペルゲンガーなのか、廃墟に住んでいる幽霊のいたずらだったのか、今もってわからないという。

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