走り去った少女(千葉県) | コワイハナシ47

走り去った少女(千葉県)

Yさんは、以前テーマパーク内の深夜警備のアルバイトを行っていた。警備員はパーク内全ての扉を開施錠出来るマスターキーを所持しており、それを紛失するとテーマパーク全体の鍵を全て交換しなければならない。また、警備員が携帯するラジオ無線機は警察も傍受できるため、その緊張感たるや並大抵のものではなかった。

Yさんはアルバイトの新人研修時に奇妙な体験をしている。その日、先輩キャストがトレーナーとして随伴して勤務を開始した。

「がんばります。よろしくお願いします」

Yさんは、若干緊張して研修に挑んだ。

最初の業務は、パーク内のクロージングであった。クロージングとは、一ルート二名で各エリアに残留した来場者が居ない事を確認して回る警備活動である。異常がない場合は、無線で「クリア」と宣言するのがマニュアルで決められていた。そんな折、クリアしたはずのエリア内で、Yさんの背後を少女が走り去った。

「んっ、今のは……」

少女は真冬なのに短いスカートを履いていた。

「おかしい……」

Yさんは、来たルートを戻り少女の探索を開始した。

(一体どこに行ったんだろう?)

少女を発見出来ず困惑したYさんは、無線で先輩トレーナーに相談した。

「今、女の子が走り去りました。どうしましょうか」

動転するYさんを他所よそに先輩トレーナーは目撃現場に向かって、手を合わせた。

「……」

黙って手を合わせる先輩トレーナー。

「何やってるんですか?」

困惑したYさんに向かって先輩トレーナーがこんなことを言った。

「僕も前に見たよ。ここでは、みんな見るんだよ」

「えっ、どういうことですか。追わなくていいんですか?」

「いいんだよ」

先輩トレーナーは、まるで昼間のお客様に手を振るように少女が走り去った方角に向かって、ゆっくりと手を振った。まるで、生きているお客様を見送るように、静かに、にこやかに手を振った……。

その後、数名の清掃業者がテーマパークに入ってきたが、取り残された少女の報告は上がらなかった。

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