元日魔人(群馬県) | コワイハナシ47

元日魔人(群馬県)

群馬県南部では三十年前から元日にニューイヤー駅伝(全日本実業団対抗駅伝競走大会)が行われており、全国にテレビ中継もされて新年の風物詩になっている。

その日、N美さんは娘二人と伊勢崎市へ行き、力走する選手たちを沿道から応援した。選手たちがごく短時間のうちに通過してしまうと、N美さんは娘二人を車に乗せて神社へ初詣でに向かうことにした。車が少ない道路を走っていたときのこと、助手席に座っていた八歳の長女が不意に「あああっ!」と大声を上げた。すぐと後ろを振り返る。

「どうしたの?」

「……今の人、見た?」

「今の人?」

N美さんはバックミラーを覗いたが、元日の道路には後続車や歩行者の姿はなかった。

「あ、あのね……」

長女が声を震わせながら語った内容というのは、こうである。

つい先程、前方から自転車に乗った男がいきなり現れたかと思うと、こちらに猛スピードで突進してきた。スキンヘッドのでっぷりと太った中年の男で、雪がちらつく寒い日なのに白いランニングシャツを着て、短パンを穿いただけの出で立ちだったという。

ぶつかる!長女は堪らず叫んだが、車と激突する寸前、男の大きな目がぎらっと光り、自転車もろとも宙に浮かび上がった。そして車の上を飛び越え、道路に着地して走り去ったそうだ。

「そんなの、お母さんには見えなかったよ」

N美さんは長女がつまらぬ嘘を吐いたのかと思い、呆れ返ったのだが……。

それまで元気だった長女が帰宅後、急に高熱を発した上、嘔吐を繰り返して寝込んだ。何も食べられず、白さ湯ゆで薬を飲ませても吐いてしまうので、元日の夜から診察と治療をしてくれる病院を探さなければならなかった。食中毒の原因となりそうなものは食べさせておらず、医師にも、風邪らしい、ということ以外はわからなかったそうである。

N美さんは長女の話を信じざるを得なくなった。

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