んよっ!(群馬県 利根郡片品村) | コワイハナシ47

んよっ!(群馬県 利根郡片品村)

尾瀬で知られる群馬県北東部の利根郡片品村は、森と高原に囲まれたリゾート地である。Fさんは高校生の夏休みに男子テニス部の部長として、片品村へ合宿に行った。トレーニングはまず、早朝のロードワークから始まる。総勢二十四名の部員たちが走っていると、やがて長い下りの坂道に差しかかった。

そのとき、後ろから一台の自転車が近づいてきた。いわゆる〈ママチャリ〉で、色白の若い男が乗っている。真夏だというのに黒いウインドブレーカーを着て、髪は長め、真っ黒なサングラスを掛けていた。男は部員たちを追い抜きながら大声で、

「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん…………」

と、唸るような声を発し始めた。そして全員を追い越したところで、

「んよっ!」

最後にそう叫ぶと、急に猛スピードを出して走り去った。

「何だあ、あいつ?」

部員たちは笑ったが、その直後に一人が転倒した。彼は両膝に軽い傷を負っている。

翌朝もテニス部員たちが走っていると、同じ坂道であの男が自転車に乗って現れた。そして前日と同じことをやり始めたのである。

「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん…………んよっ!」

全員を追い越したところで、歌舞伎役者が見み得えを切るように首を回しながら「んよっ!」と力を込めて叫ぶのが特徴であった。そのあと一気に走り去ってしまう。

また部員たちは失笑したが、その直後に一人が転倒して、手足を擦り剥く怪我をした。

「あいつと遭う度に怪我人が出るなぁ。疫病神って奴か……」

「俺、何だか気味が悪くなってきた。もう遭いたくないよ、あいつには」

部員たちの間に動揺が広がり始めたので、

(これは、何とかしないといけないな)

と、部長であるFさんは思案するようになった。

三日目の早朝。

男子テニス部の一行は、またもや同じ場所であの男と遭遇した。

「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん…………」

唸るような声を長く長く、長く引っ張りながら、部員たちを次々に追い抜いてゆく。先頭を走っていたFさんにも接近してきた。今にも追い抜かれそうになる。

(まずい。ここで「んよっ!」と言わせていけない。その前に俺が何とかしないと!)

そこでFさんは咄嗟に、

「んんんよおおっ!!」

あらん限りの大声で、男よりも一瞬早く叫んだ。

次の瞬間、男が自転車ごと前のめりに転倒したかと思うと──。

男も自転車も消えてしまったそうである。

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