里山の足音(高崎市安中市) | コワイハナシ47

里山の足音(高崎市安中市)

Zさんの母親の実家は、高崎市の西隣に当たる安中市の郊外にある。その辺りは標高二五〇メートル程度の丘陵地帯で、雑木林が広がる里山であった。

平成の初め、春先のこと。当時小学生だったZさんはそこへ遊びに行き、祖父と兄と三人で雑木林へ山菜採りに出かけた。空は晴れ渡り、暖かくて気持ちの良い日であった。目当ての山菜も沢山採れた。

その帰路、三人が林道を歩いていると、後ろから、ぱし!ぱし!と落ち枝や落ち葉を踏む足音が近づいてきたという。

(誰か来るのかな?)

Zさんは振り返ったが、誰もいない。

「足音がするよ」

Zさんは前を歩く祖父と兄に知らせた。それで三人が立ち止まると、足音もやんだ。しかし歩き出すと、また足音がついてくる。

雑木林はじきに終わろうとしていた。小さな畑を挟んで、その先に祖父の家がある。

「家までついてきしゃうよ」

兄が不安そうに言った。同じように足音を聞いていたらしい。

先頭を歩いていた祖父が立ち止まった。Zさんと兄も足を止める。

「端によけなさい」

祖父が横を向いて、深々とお辞儀をした。

ぱしぱし、ぱしっ!ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……。

足音が近づいてくる。その姿は何も見えなかった。

「おまえたちも頭を下げなさい」

Zさんと兄は言われた通りにした。足音が通過してゆく。それが遠ざかり、すっかり聞こえなくなってから、祖父は頭を上げて、

「山の神様が下界に降りてきているんだ。邪魔をしちゃいけないよ」

と、優しく微笑みながら言った。

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