晩秋の道祖神(群馬県高崎市) | コワイハナシ47

晩秋の道祖神(群馬県高崎市)

高崎市倉渕町は榛名山の西側に広がる山村で、他にも角落山、剣の峰、鼻曲山などがあって、西端は長野県と接している。道祖神の石像が多いことで知られ、県外から見学に訪れるマニアも多いらしい。三十代の女性I沢さんは、数年前の晩秋に母親と妹との三人で倉渕町を訪れた。

当時の彼女はまだ倉渕町に道祖神が多いことを知らず、ドライブをしながら知人の家に立ち寄ったのだという。その知人から、近くに双体道祖神があることを耳にした。

「せっかく来たんだから、見ていこうか」

I沢さんの提案に、母親と妹も同調した。

晩秋の群馬にしては珍しく風のない、小春日和である。三人は車を知人宅の庭に駐めておき、徒歩で目的地へ向かった。細い道に落ち葉が積もっている。

目当ての石像は男女が仲睦まじく身を寄せ合っていた。信心深いところがある三人は、石像に向かって手を合わせ、目を閉じてしばし祈った。そして引き揚げようとしたときのこと。妹が先頭に立ち、母親、I沢さんの順番で一列に進んでゆくと──。

I沢さんは、母親が何やら大きなものを引き摺りながら歩いていることに気づいた。人の形をした影が、母親の足元から後方へ伸びている。

(ああ、お母さんの影か)

最初はそう思ったが、よく見ると影の色がおかしい。黒ではなく、濃いグレーなのだ。

その影は地面に仰向けになる形で伸びていたが、やがてむくむくと起き上がってきた。両足で立ち上がると、母親の足元から離れ、単独で歩き始めたのである。足を踏み出す度に、道に積もった大量の落ち葉がめり込むのがわかった。背丈と横幅が縮んで引き締まり、より人間らしい形になってくる。小柄な母親よりも少し背が高いくらいで、長身ではないが、がっちりした体格をした男のように見えたという。

I沢さんは怖気立って、咄嗟に叫んだ。

「お母さん!変なのがついてきてるっ!」

すると、グレーの人影は間かん髪はつを容いれずに消え失せた。

母親が立ち止まって振り返り、妹も何事かと、目を見開いて引き返してくる。

「……行こう!早くっ!」

I沢さんは二人を促してその場から離れた。長居はしたくなかったのだ。足早に知人宅まで戻り、挨拶だけしてそそくさと車に乗り込む。I沢さんが車を発進させると、ほどなく母親が「さっきからどうしたの?」と訊いてきた。

I沢さんがグレーの人影のことを説明すると、それまで黙っていた妹が口を挿んだ。

「それ、私のせいだ。私が道祖神に願いごとをしたからだわ……」

「願いごと、って?」

I沢さんが訊くと、妹は渋い顔をしながら言い難そうに語り出した。

「毎日、あなた方のために、お経を唱えてあげるから、私についてきて下さい、そして、私が幸せになれるように、して下さい、ってお願いしたの」

「何でそんな……」

「だって、ここ何年か、何をやってもいいことがなかったから、つい……」

しかし、グレーの人影はなぜ妹ではなく母親の背後に現れたのか、その理由はわからなかった。それに道祖神は男女双体だったのに、グレーの人影は男と思われるものが一体現れただけであった。

(本当に道祖神だったのかな?違うとしたら、まだお母さんにとり憑いているんじゃないかしら……)

I沢さんはこの一件を思い出す度に、母親のことが心配になるそうだ。

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