お迎え(群馬県) | コワイハナシ47

お迎え(群馬県)

七十歳の男性Mさんは重い病に罹って、病院に入院したが、末期状態でモルヒネの投与を受け始め、身動きもままならなくなっていた。その病院は山の中腹にあって、晴れた日の朝夕は空が実に美しく映える。家族はMさんを少しでも励まそうと、空の写真をスマートフォンのカメラで撮っては、よく見せていた。

その夕方も娘が窓から空の撮影をしていると、それまで黙っていたMさんが、

「……あんな、もんに……」

と、聞き取り難い掠れ声を発した。

娘が振り返ると、Mさんがこちらを見上げていた。けれども、その視線は遠くへ向けられている。窓の向こうの空を見ているようであった。

「どうしたの、お父さん?」

娘が優しく声をかけると、

「あんなもん、に……迎えに、来きられるのは、嫌だ……」

Mさんは窓の向こうを指差した。その手が震えている。皺だらけで萎びた彼の顔は強張っており、唇も戦慄わなないていた。何かを見て怯えているようだ。

娘はすぐに窓の外を凝視したが、美しい夕焼け空が広がっているだけである。

(モルヒネのせいで幻覚が見えるようになったのかな……?)

娘はMさんを励まそうと思った。

「何もいないわよ、ほら」

撮ったばかりの空の画像を見せてあげようと、スマートフォンの再生画面を開いた。その瞬間、彼女は声を呑まずにはいられなかった。

白い和服を着た女が空中に浮かんで、画面一杯に写っていたのである。骨と皮のみのように痩せた胴体は横を向いていたが、顔はこちらに向けられていた。髪が逆立ち、頬のこけた真っ青な顔は眉毛と鼻が失われている。黒一色の丸い目が病室を覗き込んでいた。

娘は驚愕しつつ、再び窓の外を見つめた。だが、そこには大空が広がっているばかりだ。もちろん、撮影したときもこの女の姿は見えなかった。娘は慌てて画像を消去した。

「嫌だ……。嫌だ……」

画像を見せていないにも拘らず、Mさんはすっかり取り乱している。

しかし、それも一時のことで、じきに彼はモルヒネの効果で昏睡状態に陥った。それから数日後、Mさんは苦悶の表情を浮かべながら亡くなったそうである。

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