六本(静岡県伊豆市) | コワイハナシ47

六本(静岡県伊豆市)

もう五十歳ほどになる職場の先輩が、よくこんな思い出話を語ってくる。

先輩が大学生の頃だから、三十年も前になるだろう。バイク仲間五人で伊豆半島へツーリングに出かけた時のことだという。

バイクを走らせ日が暮れて、目についた旅館に転がりこんだ。いきなりの訪問だったが、幸い二部屋が空いていた。二人と三人に分かれたうち、先輩は広い三人部屋に割り振られることとなった。

ツーリングの疲れから、同室の二人はすぐに寝息をたてはじめる。しかし先輩はなかなか眠りにつけない。当時ですら古臭すぎると感じた和室の隅には、年代物の振り子時計が設置されていた。大型の置き時計タイプのそれは、一番端の先輩の布団から見て、ちょうど足の先にでんと居座っている。

カタ、カタ、カタ、カタ……。

振り子が左右に揺れるたび、歯車の噛み合う音が響く。大きさに比してジョイント音も重いのだろう。こういうノイズは一度気にしだすと厄介なもので、耳について離れない。

それでもなんとかウトウトしだした頃だろうか。

いきなり、寝ている布団が引っ張られた。

驚いて頭を上げると、振り子時計の後ろから、細い腕が六本、ぬうっと突き出している。

その腕たちが、こちらに向かって手招きしているではないか。

六つの手が、おいでおいでと折れるたび、布団ごと体が壁に吸い寄せられていく。

ずり、ずり、ずり

そのまま引っ張られ続け、足元が時計の台座に触れるかと思った矢先。腕たちは先輩の左足へと伸びていった。そして左ふとももが、六本の手にガッシリつかまれる感触がして……。

目覚めると朝になっていた。

嫌な夢を見たなあ。

そう思って体を起こした先輩の頭は、一気に冷えてしまった。自分の寝ている布団が、他の二人から大きくずれて、振り子時計の台座にぴったりくっついてたからだ。

その後、現在までに、先輩は四回、左足を骨折している。

バイクで転んだり、不慮の事故に遭ったり、原因は様々だが、いつもなぜか左足だけが折れてしまう。あの六本の手につかまれた、左足だけが。

三十年間で、四回だ。

自分がいつ死ぬかはわからないけど……。

先輩はいつも、左足のふとももを笑いながら叩きつつ、こう話を終える。

それまでにこの足、あと二回は折れるんだろうねえ。

シェアする

フォローする