【長編】鹿児島のとある女子高の寮の話(鹿児島県) | コワイハナシ47

【長編】鹿児島のとある女子高の寮の話(鹿児島県)

落とされる(鹿児島県)

鹿児島の、とある女子高校での話。

その学校は、遠方からの就学生のための寮が併設されている。

ただ、マミさんが割り当てられた三階の部屋だけは少し変わっていた。

なぜか部屋のドアの内側に御札が三枚、貼られているのだ。三人部屋だからお守り用の札を三枚つけているのかとも思ったが、他の寮室にそんなものはないという。

ともあれ、花の高校生活のスタート時点には、些末なこととして気にならなかった。

部屋でなにが起こるということもなく、二年間が過ぎた。しかし三年生になった頃から、なぜか毎晩、奇妙な夢を見るようになってしまった。いや、夢というにはあまりに現実と地続きであるのだが。

それは、先述した自室のベッドで寝ているところからはじまる。自分はむくりと起き上がって、部屋のドアを開ける。そのまま裸足で廊下を歩き、階段を上っていく。

四階は屋上で、布団を干すスペースとして使われている。マミさんはその端までひたひたと向かい、地上の駐車場をじーっと見下ろすのだ。

そして屋上から飛び降りる。地面の砂利がすぐ目の前に迫る。

いつもそこで、目が覚めるのだという。

ベッドの中の素足には、廊下や階段、屋上を歩いた感触が生々しく残っている。そんなことが毎日のように続き、精神が疲弊していった。

もしこれが夢ではなく、実際に寝ぼけた自分がさまよっているのだとしたら……。

命の危険に関わることだ。しかし同室の後輩たちは、深夜にマミさんが外に出ていったことはないと言う。学校経由で医者に相談したものの、夢遊病ではないと断言されてしまった。確かに状況証拠もなにもなく、現実の自分が歩き回っている訳ではなさそうだけれども……。

「まあ、女の子同士で暮らしていると、自分でも気づかないストレスがかかるんだよ」

変な夢くらい見たって不思議じゃないね、と。

医者にそう言われても、奇妙な夢を見続けることには変わりない。また同じ時期に、嫌な噂も聞いてしまった。

この学校では以前、飛び降り自殺した女生徒がいたらしい。寮ではなく校舎だが、屋上から身を投げた点は夢と同じだ。屋上に続く唯一のルートである非常階段がずっと封鎖されていることは、マミさんも知っていた。それは、死んだ女生徒の影響で自殺をはかるものが出ないように、との理由からだというのだ。

真偽はわからないが、こうした情報もマミさんの恐怖に拍車をかけた。

同じ状況が一か月以上続いたところで、マミさんは実家の母に「このままだと死にそう。寮を出たい」と泣きついた。だが母親もただのホームシックと判断したようで、「あと一年で卒業なんだから、それまで我慢しなさい」の一点張り。

皆の言う通り、ただの夢だとしても、心は着実に疲弊していく。もう少し続いていたら、実際に屋上から飛び降りてしまっていたかもしれない。

しかし問題は突如として解決した。二か月目に入るあたりで、悪夢がピタリと止んでしまったのだ。

なにが功を奏したのかわからない。とにかくいつも通りの睡眠が返ってきたのだから、それで万々歳である。

ただその代わり、マミさんは別の理由で眠りを破られるようになった。

毎夜のように、上から布団が落ちてくるのだ。といっても、ポルターガイストの類ではない。

この女子寮では、上級生は二段ベッドの下、下級生は上で寝ることになっている。校則ではないものの、長年伝わる暗黙のルールだ。

自分が夢を見なくなったのと入れ違いに、ベッドの上の後輩が、たびたび掛け布団を落としてくる。バサリ、けっこう大きな音がするので、その都度、目を覚ます羽目になる。

……この子、だいぶ寝相悪いんだな。

同室になってから二か月、自分の症状にかまけていたため気づかなかったのだろう。数日間は黙っていたが、生活を共にしているのに無視もおかしい。タイミングを見計らい、布団の落下について指摘してみた。

「なんか、すごい恰好で寝てるんだね」

冗談めかしたつもりだったが、相手の反応は意外なものだった。

「なにも知らないくせに!」

こちらをキッとにらみ、そう言い放ったのだ。後輩ながら、その迫力に押されてしまい、それ以上の追及は出来なかった。

数日後の深夜である。

ドスン!

今までにないほどの轟音が、寝ているマミさんを襲った。

とっさに頭を上げると、ベッドの脇に例の後輩が倒れている。布団ではなく、本人自身が落ちてしまったのだ。

「どうしたの!」

別の後輩と二人で駆け寄ると、完全に気絶している状態。急いで寮母を呼び出しているうちに意識を取り戻したが、ゼイゼイと過呼吸が止まらない。とにかく近くの病院へと救急搬送することになった。

翌日、見舞いに行った時には、鎮静剤のおかげで後輩も落ち着いていた。

「ただの寝相で落ちた訳じゃないよね。なにかおかしなことあったの?」

自分自身の体験もあり、マミさんはつとめて冷静に事情を訊ねてみた。

「はい、実はですね……」

後輩によれば、少し前から寝ている布団が引っ張られる現象が始まったのだという。最初は寝ぼけているのかと思った。しかしそれが連日続く。どうもベッドの脇から「つかんでくるなにか」がいるようだ。抵抗してみるものの、いつも布団が奪われ、落とされてしまう。

そして昨日は様子が違った。いきなり布団ではなく、自分の右足をつかまれたのだ。あっと思う間もなく、強い力で一気にひきずりおろされた。

と、そこまで語ったところで、後輩の全身がガクガクと震え出した。昨夜のことを思い出すだけでショックがぶりかえすのだろう。

「ごめん、もういいよ、お大事に」

彼女をなだめてから、マミさんは寮に帰った。しかし病室にいる間、どうしてもその右足が気になってならなかった。

足首についた真新しい内出血のアザ、それは明らかに人の手形をしていたから。

それが、後輩との最後の面会だった。

後日、彼女の母親が寮を訪れ、「実家に連れて帰る」と退寮手続きを済ませた後、荷物を全て持ち帰っていった。あえて学校側に問いただしていないが、高校そのものを退学してしまったのだと思われる。

「……その部屋にいるなにかが、少女たちを落とそう落とそうとしているんですかね」

マミさんの体験談を聞き終えた私は、そんな感想を漏らした。

「どうなんでしょう」と相手は言葉を濁す。

「もしくは、これはこっちの勝手な想像ですけど」

私も一つだけ、確認しておかなくてはならない。

「当時、神経がまいっていたマミさんが、後輩の布団や足首をつかんで落としていた……という可能性はないですかね?もちろんわざとではなく、無意識の行為として」

たとえそうであったとしても、彼女がおかしな精神状態に導かれたこと、それ自体が怪現象だとも言える。怪談として扱っても問題はないだろう。

「はい、それは私も考えました」

あの病室で、後輩に打ち明けられた瞬間。マミさんはまず、自分の仕業ではないかと疑った。医者がなんと言おうと、夢遊病のような行動をしているのでは、と。

「でも少なくとも、彼女をひきずりおろしたのは私ではなさそうです」

何度も確認した。後輩の足首についた手のひらと指の形をしたアザ。

その大きさは、自分のものとは明らかに異なっていた。

それは、幼い子どもがつかんだような、小さな小さな手形だったからだ。

寮の鏡(鹿児島県)

マミさんは、同じ女子寮でまた、次のような体験もしたそうだ。

その寮には旧館と新館があり、二つの建物は長い渡り廊下で繋がっている。

そして廊下の中ほどには、なぜか大きな鏡が設置されていた。

「夜中にその鏡を見ると、この世でないものが映る……というのが寮生の間では暗黙の了解でした」

……と、まあここまではよくある〝学校の怪談〟だろう。

しかしある夜のこと。

マミさんは期末試験のため、数駅離れた友人宅にて勉強をしていた。寮に着いたのは午前零時を過ぎたあたり。

新館事務所にて帰りが遅くなったことを謝りつつ、自室のある旧館へと急いだ。

渡り廊下を小走りに進んでいたところ。

突然、斜め後ろの視界がオレンジ色に明るくなったのを感じた。それと同時に、ひりつくような熱風が背中から後頭部をなでる。なにごとかと振り向いた。

異常の原因は、例の鏡だった。

鏡面の向こうに、二人の人間が炎に包まれているのが見えたのだ。

二人のうち一人が手前に来たかと思うと、奥へと遠ざかっていく。それと入れ替わりに、もう一つの炎上する人影がこちらに進んで大きく映る。火だるまの二人は、代わるがわる行ったり来たりしながら、こう叫んでいた。

──熱いっ!

──殺してくれっ!

腰を抜かしながらも、マミさんはなんとか自分の部屋にたどりついた。

「あれは私が生み出した想像なんだ、そうに決まっている……。ベッドの中でそう思いこんで、必死に目をつむっていました」

しかしなかなか眠りにつけず、一時間以上が過ぎてしまった。それでも午前二時頃、ようやくウトウトとしかけたのだが。

パチ、パチ、という高い音が窓の外から響いてきた。

思わずそちらを向くと、これも窓から部屋に向かって、オレンジ色の光が差し込んでくる。

さきほど鏡の中に見た、あの光だ。

呆然としているマミさんに、すでに起きていた同室の後輩が叫んだ。

「先輩、火事です!部屋を出ましょう!」

その声の勢いに慌てたマミさんは、メガネだけを手にして飛び出した。

集会室に駆け込んだ時には、もうほとんどの寮生たちが立ちつくしていた。意味がわからないまま、そこで待機していると、朝方になって学校の先生がやってきた。そして静かに、こう話し出したのだという。

「お隣の家が全焼しました。火元はまだわかりませんが、そこに住んでいるご夫婦が亡くなられたようです」

マミさんは今でも、あの鏡に映し出された光景と、あの死を懇願する悲鳴が、忘れられないそうだ。

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