パタパタ(愛媛県) | コワイハナシ47

パタパタ(愛媛県)

スマートフォンが流行する前、二〇〇〇年代前半の話となる。

愛知県在住のマサシさんは当時、三年だけの期間社員として福井県に働きに出ていた。

どうせ短い間なので、住む場所も考えず、とにかく安いアパートを借りておいたそうだ。

そこに引っ越してすぐのこと。夜遅く、部屋でマンガを読んでいると、当時のガラケーにおかしな非通知電話がかかってきた。

「もしもし?」と応答しても、相手は一言もしゃべってこない。その代わり、なにか乾いた物音が聞こえてくる。

パタパタパタパタ……

手で硬いものを叩いているような音。それがずっとずっと続いている。

「もしもし?もしもーし……なんだよ」

イタズラ電話かと思ってすぐに切ってしまった。

その二、三日後、同じくらいの時刻に電話がかかってきた。今度も番号は非通知。嫌な予感がしたが、とりあえずテレビの音量を下げ、電話に出てみる。しかし向こうはなにもしゃべらず、ひたすらパタパタパタパタと聞こえるだけ。

またこいつか……暇なやつがいるなあ。

「なんですか?どなたですか?用があるなら言ってくださーい!」

いくら話しかけても返答はいっさいない。さすがに怒ってもいいだろうと判断した彼は、「イタズラするな!」と一喝して通話を切断。

ほんと気持ち悪いやつだな……。気を取り直そうと、またテレビの音量を上げて、深夜番組のドタバタに集中するようにした。

しかしまた二、三日経つと、やはり夜遅くに非通知電話がかかってきたのだ。

あ、絶対あいつだ。

苛ついたマサシさんは一計を案じた。

こちらが反応するから調子に乗るんだ。今度は電話をとったまま、ずっと放置してやろう。通話ボタンを押し、例のパタパタが耳に入ったところでケータイを机に置く。そのまま、マンガを読んだりトイレに行ったり、勝手にくつろいでいた。

三十分以上も経っただろうか。してやったりという気持ちで、とっくに繋がっていないだろうケータイを手にしたのだが。

パタパタパタパタパタパタ

なんと、例の物音がしつこく鳴り響いているではないか。

寒気が走り、とっさに通話ボタンをオフにする。

この異常性に怖れをなしたマサシさんは、非通知からの着信を拒否する設定にした。当然だが、それからはいっさい、例のイタズラ電話がかかってくることはなかった。

そうして一年が経った頃。

勤務先など、現地での知り合いも少しは増えた。相変わらずのガラケーだが、最新機種に買い替えたりもした。非通知拒否も、そろそろ解除してよいだろう。去年の件を忘れた訳ではないが、さすがに気にしすぎかと、マサシさんはケータイの設定を変更した。

その当日の夜である。

部屋で寝転んでいたマサシさんの横で、着信音が鳴る。こんな夜遅くにかけてくる人間に心当たりはない。いぶかしみつつケータイを手に取ると、非通知着信の表示が。

いや、嘘だろ、まさか、あいつが?

設定解除した日にかけてくるとは、なんというタイミングだろう。いやそうではなく、一年前から毎晩毎晩、この番号に電話をかけ続けていたのかもしれない。

マサシさんの中で、恐怖とともに好奇心がふくらんできた。

この時には、いわゆる第三世代携帯によるテレビ電話サービスが可能となっていた。それを試してみたら、いったいどういう反応をするんだろう。どうせ卑怯者なんだから、顔など出せずに退散するだろう、との目論見もあった。

ケータイを机の上に置き、テレビ通話をオンにする。

意外にも、相手はそれに応答した。

こちらの画面に男らしき手元が二つ、アップで映された。先方もケータイを耳元から離して置いているのだろう。開いた手のひらが、なにかの木の台を細かく叩いている。

パタパタパタ……

やっぱりあいつだ!こんなの見せつけてなんのつもりだよ……。

不気味ではあるが、目が離せない。息をのんで見入ってしまう。

パタパタパタパタパタ

しかしなんだか、音の調子も一年前とは少し異なっている。

バタバタバタバタダダダダダ

両手の動きがだんだん速く強くなっていくのだ。

ダンッ!

二つの手のひらが怒ったように台を打ちつけた。

その衝撃で相手のケータイが跳ね、送信画面が後方へずれる。

「うわっ」

不思議なことに、一拍おいてマサシさんのケータイも、向こうのショックに呼応するかのようにストンと倒れた。驚いて無意識に机を蹴ってしまったのかもしれない。とにかく、慌ててそれを拾い上げ、また画面に目をやる。

相手はまたパタパタを再開している。ただし今度はケータイが後ろにずれているため、先ほどより広い画像が映っていた。

……え?

そこでなぜか違和感が走る。

一秒、二秒、三秒と見つめるうち、その原因がわかった。

パタパタパタと叩かれている木の台は、机だった。

しかもそれは、画面外にある自分の机と全く同じ。そこに置かれたケータイも本も文房具も、そっくりそのままの位置にある。飲みかけのグラスにいたっては、残ったビールの量まで一緒だ。

パタパタパタパタ……

今まさに、自分の目の前にある机そのものが、映されている。

とっさに通話を切断した。

翌日にはケータイの番号も変え、部屋もすぐに引っ越した。

それから今にいたるまで、例の電話はかかってきていない。

シェアする

フォローする