スクラップ場前の家(鹿児島市) | コワイハナシ47

スクラップ場前の家(鹿児島市)

ミカさんが子どもの頃、鹿児島市郊外のとある町に、両親が中古の家を購入した。

一階が台所とリビング。階段途中の中二階に物置部屋があって、さらに上の二階・二部屋が子ども部屋だった。

目の前がスクラップ工場で、何台もの廃車が積まれていたそうだ。ミカさんら三姉妹は、なにがあったかわからない残骸に不気味さを感じつつ暮らしはじめた。

ちなみに先述した「悪意の家」と同じく、この物件も崖下に位置している。町自体は平地の多いエリアなのに、わざわざ崖に隣接するように家を建てているのだ。

崖の方向から陽がささないため、屋内がやけに陰気で湿っぽい。特に二階の子ども部屋は崖側にあるため常に薄暗かった。妹たちはいつも、二階にミカさんを上らせ、電気をつけてからでないと立ち入らないほどだった。

夜寝ていると必ず、中二階あたりの階段をミシミシとのぼる音がする。母かなと思って待っているが、誰もやってこない。それはほぼ毎夜続いた。

いきなりミカさんの部屋の壁が、ベコリとへこんだこともあった。朝起きてみると、漆喰の壁に直径一メートルほどの穴が出来てしまっていたのだ。そこはミカさんの一人部屋だったので妹たちの仕業ではない。しかし子どもたちの証言はいっさい信じてもらえず、父も母も「ケンカで暴れたんだろう」と決めつけるばかりだった。

その家には四年ほど住んでいた。そこで父親が異動になったため、借家として賃貸に出すこととなる。借りたのは、三十代の息子と六十代の母親という母子だった。

月日は流れ、ミカさんも二十歳になった。

その頃、彼女の一家は鹿児島市内に新居を建てて暮らしていた。あのスクラップ場前の家には、ずっと母子が住み続けている。

しかしある時期から、滞ったことのない家賃がパッタリ途絶えるようになってしまった。三か月も滞納が続いたが、母子どちらにも連絡がつかない。

「こりゃ夜逃げされたかなあ」能天気な父親は、あまり気にしていないようだった。

「そしたらあの家、ミカが今の彼と結婚したらあげるわよ」親公認の恋人の名前を出しつつ、母親も気楽に笑う。

冗談じゃない、あんな変な家いらないよ……。ミカさんは適当に親の言葉を受け流した。

そのすぐ後、ミカさんが彼氏とドライブデートをしていた時、たまたま例の家の近くを通りがかっていることに気がついた。「結婚したらあげるわよ」なんとなく母親のセリフがよみがえってくる。

まあ家賃の件もあるし、いちおうどんな状態か見ておこうかな。

彼氏に事情を説明し、立ち寄ってみることに。しかしなぜか、記憶どおりの道を辿っていっても所在地が見つからない。

おかしいなあ……。いったん国道に戻り、なんとか住所から道順を探索する。すると雑草がぼうぼうと生い茂る小道が、家へのルートだと判明した。確かに見覚えのある道だが、あまりに以前と変わってしまっている。脇のスクラップ場もただの空き地になっていたため、すっかり見過ごしていたのだ。

丈の高い草木をかきわけつつ進んでいく。どこにも踏み跡がなく、しばらく誰も通っていないのは明らかだ。

その先にあったのは、廃墟と見まごうばかりに荒んだ家屋だった。

壁はあちこち汚れたままで、軒先にはいつからあるかも知れないゴミが散乱している。

なにこれ、人が住んでるの……!?

勝手口の窓のカーテンが少し開いていたので、おそるおそる内部を覗いてみる。そこから見えたのは、今引っ越してきましたとばかりの、山積みになった段ボール箱だった。

そしてもう一つ、嫌な臭いが漏れているのも気にかかった。今まで嗅いだことのない、なにかが腐ったような臭い。

ふと足元に目を下ろすと、ドアから数匹の蛆虫が這い出していた。

すぐにその場を後にした。あまりにも気味が悪く、すぐには親に言い出すこともできなかった。

ただその数日後の夕方、実家に一本の電話がかかってきた。父親が出て「はい、はい」と応答する。

その直後から数分間、ミカさんの記憶は飛んでいる。これは後で父から聞いた話だが、先方が用件を切り出す前、父親がなにげなく横を向くと、すぐそばでミカさんが正座しながら

「〇〇(町名)の家に不吉なものがあるから早く行って」

と呟いたのだという。当のミカさん自身は覚えていないのだが、「あれにはゾッとした」と、父はたびたび漏らしている。

予想通り、電話は例の家についての連絡だった。

あの中年の息子が、台所にて首を吊っていたのだ。

母親の行方はわからない。他に身寄りがないため、捜索願も出されていない。事件性があるかどうか微妙なので、警察もまずは母親へ連絡をとろうと動いている。

そして例の家についても、賃貸契約があり、相手の所在が未確定である現状、いくら家主でもすぐには手を出せない。強制措置もとれたかもしれないが、昔の地方で、かつ個人間の契約だったため、父はトラブルを避け、ひとまず様子見となった。

とにかく数日間、宙ぶらりんの状態が続いた。

そんなある夜のこと。

眠りについていたミカさんは、突然なにかに体をひっぱられて目を覚ました。

髪の根本と、バンザイするように上がった両手が、がっしり掴まれている。そのまま布団から出され、ずるずると引きずられていく。

部屋には妹も一緒に寝ている。思いきり妹の名前を呼ぼうとしたが、どうしても声が出ず、ひゅうひゅうと息が吐かれるだけ。

ずる、ずる。ひっぱられていく先にはクローゼットがある。必死に頭をそらすと、いつのまにかその扉が開いているのが見えた。

ずる、ずる。クローゼットの中は、真っ暗闇の穴が広がっていた。

あの中にひきずりこむつもりだ、閉じ込めるつもりだ。

そう直感し、頭が恐怖で満たされた。ミカさんの全身がそれを拒んだ。

「おかあさーん!」

なんとか悲鳴を上げた瞬間、ふうっと両手と頭の感触が消えた。

すぐに両親が寝室にかけこんできて、「どうしたの!」と、部屋の隅でがたがた震えるミカさんをなだめる。

「おかあさん、おかあさん……」

しかし口から出たのは、自分でも思いがけない言葉だった。

「……中二階のタンスの中にいるから探して」

翌日、父親は例の家について警察に連絡した。問題になっても責任は負うので、と家宅捜索を依頼したのだ。

行方知れずの母親は、中二階の物置部屋にて、遺体で発見された。古いクローゼット型のタンスの中に、体育座りのような姿勢で押し込まれていたのだ。その首には紐が巻かれており、だいぶ前に絞め殺されていたようである。

警察は、自殺した息子による犯行と結論づけた。同意の上だったのか無理心中だったかは、どちらの当事者も死亡し、遺書もないため判明していない。

私自身も当案件について調べてみたものの、今のところ詳細は知りえていない。被疑者死亡のため、殺人事件としての報道がほとんどされなかったようだ。地元紙およびTVのローカルニュースで触れられていたとも聞いたが、データベース化されていない地域情報の中から探し当てる時間は、本書執筆までにとれなかった。

それはさておき、事件から二年が経ったある日。

母親が、ふいにあの町の話を、ミカさんに伝えてきた。

例の家のすぐ近く、住所としては隣にあたる住居もまた、空き家になったというのだ。ミカさん一家が住んでいる時に交流があったので覚えている。そこも隣の家と同じく母子家庭で、母親の方はよく畑の野菜を持ってきてくれる、気さくな人だった。

「あの人もね……息子に殺されたんだって」

たった二年のうちに、隣家同士で「息子が母親を殺す」事件が連続したのである。前回の件で嫌な思いをしているだけに、奇妙すぎる偶然の一致は、ミカさんの背筋を寒くさせた。

このケースついては、私も確認をとっている。はっきりとした殺人事件のため全国紙で報道されていたからだ。

新聞の第一報によれば、東京から帰省していた当家の長男が、なにかの原因で母親と口論になった末、鈍器で殴り倒してしまう。そしてこれも隣家と同じように、「首を絞めて」殺したのである。

続報を追っていくと、三ヶ月後の地域版に、意外な顛末が小さく掲載されていた。「心神喪失で刑事責任を問えず」として、息子が不起訴処分になっていたのだ。具体的な事情が報じられてないため、なぜそのような判断が下されたのかはわからない。

またミカさんの母はこの時、自宅前にあったスクラップ場についても話してくれた。そこは夫婦で営んでいた工場だったのだが、例の事件の少し前に閉鎖している。経営不振による借金を苦にして、二人で自殺したとのことだった。

ミカさんがかつて住んでいた家。その隣にあたる家。そしてスクラップ場の家。

隣り合う二軒ではともに息子が母を絞め殺し、その前の家では夫婦が自殺している。一連の悲劇は、わずか二年という期間で、たて続けに起こったのだ。

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