樹海のてんまつ(山梨県 青木ヶ原樹海) | コワイハナシ47

樹海のてんまつ(山梨県 青木ヶ原樹海)

イベント会社を経営する優さんから聞いた話だ。

彼は高校生のころ、かなりのヤンチャだった。仲の良い友人四人といつもつるんでは学校をサボってあちこち遊びに行っていた。

高校三年になると優さんはすぐに車の運転免許を取った。ある日、この五人組で遊びに行く計画を立てることにした。

「どこ行く?」

「女の子ナンパしてさ、海行こうぜ!」

「つうか、車一台しかねえじゃん」

「うわ!マジだ!なんだよ、ナンパできねえじゃん!」

「じゃあさ、あそこ行ってみようぜ、あのやばいところ」

「なんだよ、そのやばいとこって」

「樹海」

「は?樹海?」

「なんか、おもしろそうじゃん」

五人は例の如く学校をサボって、東京から優さんの運転で樹海を目指した。

あの自殺者が絶えないことで有名な青木ヶ原樹海へ。

持ち物は懐中電灯とビデオカメラのみ。現地に着いたころにはすでに陽が傾きはじめていた。車を停めるとそこからは徒歩で行くことにした。

懐中電灯で足もとを照らしながら森の奥へと進んでいく。

樹海の中は妙に青黒く、外の世界とはまるきり温度が違っていた。太い樹木の根っこがそこらじゅうに張り巡らされていて歩きにくい。

「やべぇ、テンション上がってきた!」

友人のアキラさんが大声でそう叫ぶと、ほかの四人もわざと悲鳴を上げたり大笑いをする。

アキラさんは自宅から持って来たビデオカメラであたりを撮影しながら、足場の悪い暗い道を進んでいく。

何に対しての期待なのか、優さんも興奮していた。

それからしばらくすると、先頭を歩いていたサトルさんが立ち止まり「なんだ、あれ」と前を指さした。

太い樹の根元にスニーカーがある。泥だらけのそのスニーカーが真っ直ぐ揃えてあるのが妙に思えた。そこに木の棒のようなものが刺さっている。

「汚ねぇ!きもち悪ぃ、なんだこれ!」

サトル君は大声で笑いながら持っていた懐中電灯でそのスニーカーを照らす。灯りに照らされたその汚れたスニーカーを見ると五人は急に言葉を失った。

やがて「うわ!」と、誰かが叫び声を上げた。

スニーカーに刺さっているものは木の棒ではなく人間の骨だ。膝から下だけの足の骨がスニーカーを履いた状態で樹にもたれ掛かっていた。

足以外の部分はどこにもなかった。

「これさ、マジでやばいやつじゃない?」

「警察行った方が良いんじゃねぇの?」

「いや、めんどくせぇことになるからいいよ」

「じゃあもう帰ろうぜ」

急に怖気ついて、五人はもと来た道を引き返すことにした。無言のまま暗い樹海の中を、懐中電灯の光を頼りに足早になる。

ところがその途中で「なぁ、誰かがこっち見てる」と、前を歩いていたヒロシさんが持っていた懐中電灯をその方向に向けた。すると太い樹の枝にロープが括りつけてあり、首が伸びきった恐らく女性と思われる上半身がこちらを向いてぶら下がっていた。下半身はなぜか上半身と離れた場所で、まるで正座するように落ちていたという。

「マジでやべぇよ。しゃれになんねぇよ。早く帰ろうぜ!」

優さんがそう言うと隣にいたアキラさんは突然笑い出し「もうちょっと、もうちょっと」と言ってその首の伸びきった死体をビデオカメラで撮影しはじめた。

「おい!マジやめろや!」

かっとなった優さんは、ビデオカメラをひったくると電源を落とした。そして出口を目指して走り出した。

「今さらびびってんじゃねえよ」

背中に怒声を受けながらも車に乗り込み、エンジンをかけて皆がそろうのを待った。

帰り道ではほとんど会話もせずに東京へ戻った。

樹海ショックもすっかり冷めた数日後。

「そういや、あのとき撮ったビデオ見てなかったな。見ようぜ」

ということになり、アキラさんの自宅に五人組は集まることになった。

ビデオをデッキに入れ、テープを再生する。そこにはあの日撮影された二体の生々しい死体がはっきりと映っていた。

「おい!マジやめろや!」

優さんの叫び声がした。その後ビデオは電源を切ったのでそこで終わるはずだった。ところが画像は暗転して終わっているのに、何か別な声が入っている。

「おかしいな、なんて言ってるんだ?」と巻き戻して聞き直す。

──今さらびびってんじゃねえよ。

そう聞こえ、優さんは強張った。その声は明らかに女性のものだった。

電源は切ったのになぜ?女の声というのはいったい?

その後、ビデオはアキラさんの家に保管され、それきりとなった。

高校を卒業後、五人はそれぞれの道に進み、一緒に遊んだりすることもなくなった。

しばらくの間は連絡を取り合っていたのだが、ある時期からアキラさん、サトルさんのふたりとまったく連絡が取れなくなってしまった。

そこで優さんは彼らの実家に電話してみることにした。まずはアキラさんの実家へかけた。

「もしもし。おばちゃん?久しぶり。優だけど、アキラいる?」

すると母親は、

「優君、なに言ってるの?あの子死んだじゃない」

そう言った。

ビデオカメラを撮影していたアキラさんは卒業して一年後、突然行方不明となりその後、樹海で遺体で発見されたという。アキラさんの母親は続けて「ヒロシ君も残念だったわね」と言う。

ヒロシさんも卒業して一年後に亡くなっていた。

──そうだ。アキラもヒロシも死んだんだった。

なぜか優さんの記憶からふたりが亡くなったことが消えていた。

優さんは慌てて残りのふたりの実家に電話する。

サトルさんは無事だった。就職して社会人になっていた。樹海でずっと無言だったダイスケさんも生きていた。アキラさんとヒロシさんが亡くなったのは単なる偶然なのだと三人は言い合った。それからは頻繁に連絡を取り合っていたのだがそれからしばらく経つとまた間があいた。

それから二年が経ったころ。優さんは久しぶりにサトルさんに連絡をすると、現在は使われていないというアナウンスが流れてきた。

胸騒ぎがした優さんは彼の自宅に電話したが、ある日会社へ出勤したきり行方不明になってしまったとのことだった。

「ダイスケさんはどうなったんですか」

私は優さんに聞いてみた。

「元気だよ。今でもたまに遊ぶし。ただ、あいつらのこと思うとつらい。そのうち俺らも死ぬのかな」

優さんは俯きながらつぶやいた。

突然、優さんと連絡がつかなくなって、今年でもう六年になる。

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