首吊り(東京都) | コワイハナシ47

首吊り(東京都)

前にも書いた須藤為五郎さんの別の話だ。

今から五十年ほど前、為さんがまだこどもだったころ、早起きをしてひとつ歳下の弟と公園でキャッチボールをすることが日課になっていたという。

その朝も早くから誰もいない公園でふたりでキャッチボールをしていた。弟の暴投でボールが為少年の頭上を越え、公園の奥へと転がっていった。

小走りでボールを追って公園内を走る。転がったボールが速度を落とし、公園奥の鉄棒脇にある大きな樹の手前で止まった。拾い上げてふと見上げると、すぐ目の前に足がぶら下がっている。その足から上へと視線をやると、首にロープを巻いた男性が空中に浮かんでいた。

為少年はボールを拾うと、何ごともなかったかのように弟のもとへ走っていった。

なぜかそのときは騒ぎたてる気にならなかった。

その後、無言でボールを投げ続けた。

パシ、パシ、とボールを受ける音だけが、誰もいない公園に鳴り響く。

それから十球ほど投げ終えると、為少年は「ちょっと」と、弟に声をかけた。

「兄ちゃん、どうしたの?」

「こっち」

弟を連れて先ほどボールが転がっていった樹のあたりまで行った。男の体は変わらず、首にかけたロープで浮いている。

「お巡りさん呼んだ方がいいよね」

弟が男を見上げながら言った。

「うん。そうだね」

ふたりとも冷静だった。

近所の派出所に向かうと事情を知らせたのだが、そのあとたくさんの質問をされ、その後も死亡推定時刻の確認やらで警察から何度も連絡がきたという。

──そんなことがあったというのを、数十年が経ち大人になった為さんはすっかり忘れていたのだが、ある夜中、ふと目が覚めると、足もとに見知らぬ男性が立っているのに気がついた。

(誰だ?)

男性は何かつぶやいていたようだったがよく聞こえなかった。

そのうちに姿は消えた。

どこかで見たことのあるような男に思えてしばらく考えていると、少ししてから思い出した。あれは大昔に見た公園で首吊りしていた男性だ。

(なんで、今さら)

そう思ったが、日付を思い出して納得した。

何度も警察と話をしたので覚えていた。その日はあの男性の命日だった。

男性が現れたのは後にも先にもそのときだけだという。

なんのために現れたのかはわからないが、この年は為さんが男性が亡くなったときと同じ年齢に達する年だったそうだ。

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