ビー玉(東京都) | コワイハナシ47

ビー玉(東京都)

津軽三味線デュオ「神山兄弟」の神山卓也さんが同級生の貴志君から聞いた話だ。

貴志君が小学生だったころのこと。

学校からの帰り途中に道端で泣いている女の子を見つけた。

おそらく四、五歳くらいだろう。

放っておくこともできなかったので「どうしたの?」と聞くと、家までの帰り道がわからなくなってしまったと言う。

貴志君から声をかけられた女の子は、安心したせいか目からさらに大粒の涙を流し、足にしがみついてきた。

(迷子か。早く帰ってアニメ見たかったけど仕方ないな)

「じゃ、お兄ちゃんとお家探そう。もし見覚えのある道があったら教えて」

貴志君は女の子の手を引いて歩きはじめた。

しばらくの間は不安気な表情をしていた女の子だったが、少し行くと「あ、こっち!」と指をさした。どうやら道を思い出したようだった。

貴志君もほっとして「よかったね」と声をかけながら歩いて行く。

その途中、女の子はスカートのポケットの中からビー玉を取り出して「これあげる」と手の平に載せてくれた。

ガラスにオレンジ色の模様が入っており、陽に照らされキラキラと光っている。

「くれるの?大事なものなんじゃないの?」

「そう、宝物。お兄ちゃんにあげる」

女の子はにっこりと微笑んだ。

やがて道沿いに白い二階建てのアパートが見えてくると、女の子は「あった」と貴志君の手を離れ走り出した。

女の子は、アパートの一階の一番奥の部屋の前まで行くとインターホンを押す。

貴志君は親御さんが出てくるのを見届けようと一緒に付いて行くことにした。

すぐに部屋の中から「どちらさまですか」と女性が出てきた。おそらく女の子の母親だろう。

「この女の子が迷子になっていたようなので送ってきました」

貴志君が隣を指さすと、

「女の子?」

女性は首を傾げた。

見ると、たった今隣にいたはずの女の子の姿がない。

「あれ?おかしいな。今までここにいたのに……」

そうつぶやくと女性は、

「何かあったんですか」

不思議そうに貴志君の顔を見る。

「家がここだって言うから今連れて来たんですけど」

すると女性は、

「その子ってどんな子です?」

「おさげをしてスカートをはいた幼稚園生くらいの子ですけど」

そう応えると女性の顔色が一瞬で変わり、

「──うちの娘です。半年前に死んだ」

「えっ」

「ご迷惑をおかけしました」

どうぞお帰りください、といって女性は扉を閉めてしまった。

閉まる寸前に「もういい加減許して。お願いだから許して」という女性の声が微かに聞こえた。

あのとき女の子にもらったガラスのビー玉を捨てることができず、しばらくは自宅に保管していたが、今はどこへ行ってしまったかわからないという。

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