常連客(東京都) | コワイハナシ47

常連客(東京都)

敦子さんが母親から聞いた話だ。

彼女の母親である正美さんは今から二十年ほど前に、東京の下町で小料理屋を経営していた。

その店に、原田さんという七十代の女性客が毎日ひとりで通ってくるようになった。

上品で身だしなみも良い。常に高級そうなアクセサリーやバッグを身につけている。ある運送会社の社長の未亡人だったという。

店に来はじめた当初は、かるく一杯飲んで帰宅していたが、だんだんと深酒をするようになり、そのうちに毎回泥酔状態になっていった。そして口癖のように「淋しい」とつぶやくのだそうだ。

原田さんがここへ通うようになって三ヶ月ほど経ったころ、正美さんはその理由を知ることになる。

彼女のご主人は数年前に、海外旅行先で強盗に遭い殺されてしまったということだった。

当時その国ではピンポン強盗という外国人を狙った事件が多発しており、彼女のご主人もそのターゲットになってしまったという。発見されたときには椅子に縛られ、すでに殴り殺されていた。そのうえ愛人と一緒だったらしい。

「悲しくて淋しくてどうしようもないの」

原田さんは酔うといつもそう言っていた。

そのうちに泥酔しては店で眠ってしまうことが増え、閉店してもなかなか帰らないようになった。正美さんは片付けを終えると、家まで彼女を車で送ることもあった。

あるとき、いつも以上に酔っていた原田さんを自宅まで送ったのだが、このときは車から降りることもできないほど酩酊していた。正美さんは車を降りると原田さんを支えながら玄関先まで連れていくことにした。

門を開けると広い庭があり、玄関までは十数メートルほどある。一人息子は結婚し地方へ移り住んでいるため原田さんはこの広い屋敷でたったひとりで住んでいると聞いていた。

正美さんは彼女に肩を貸したが、フラフラで歩くこともできない。「淋しいのよ、わたし」とつぶやきその場にへたってしまう。

「だめよ、起きて。もうすぐだから」

そう呼びかけたときだった。どこからか手が伸びてきて原田さんの体をしっかりと支えた。そこには初老の男性がいて、にっこりと微笑んでいる。

「助かります。ありがとうございます」

正美さんはホッとしてその男性と一緒に玄関へ向かった。そして原田さんを家の中に入れドアを閉め、鍵が閉まったのを確認すると車に乗りこんだ。

そのときふと思った。

(あのひと、誰?)

一緒に支えてくれたことは覚えている。家の中へも入ったと思っていたが、途中からその男性の姿はなかったように思う。言葉もひと言も発していなかった。

ただ唯一記憶に残っていたのが、男性の髪型だった。特徴があり、はっきりと覚えていた。

後日、いつものように泥酔した彼女がおもむろにご主人の写真を見せてくれたのだが、そこで正美さんは、あのとき助けてくれたのは亡くなったご主人だったのだと気がついた。

「見て。うちのパパね、不自然なカツラ頭だったのよ。あはは。変な頭でしょう?」

原田さんはそう言って泣いていたが、ご主人は亡くなった今もつぐなうように彼女をそばで見守っているんだろうと正美さんは思ったそうだ。

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