風呂場(東京都) | コワイハナシ47

風呂場(東京都)

藤田さんは高校を卒業後、実家を離れて東京郊外のアパートでひとり暮らしをはじめた。

高校では活発にスポーツをしていたのだが、卒業後は大学へは進学せずにコンビニでバイトをしながら将来進む道を考えるという生活を送っていた。

学生のころとは違って、働いて帰って来るとそのまま疲れて眠ってしまうこともたびたびあった。

ひとり暮らしをはじめてから数週間が経ったころ、不思議な夢を見た。

夢の中で藤田さんは自室にいる。

なんとなく風呂場が気になり、空中を浮かぶようにしてそちらへ向かうと、ひとりの男が風呂場の洗い場の椅子でこちらに背を向けて座っている。

「誰ですか?」

声をかけたところで目が覚めた。

次の日、また同じ夢を見た。やはり風呂場が気になり、空中を移動しながら風呂場へと向かう。

昨日と同じ男が背を向けて座っている。

「誰ですか?」

男がゆっくりと振り向こうとしたところで目を覚ました。

翌日もその翌日もまた同じ夢を見た。

それが七日の間続き、夢の中の男の顔が間もなく見えそうになっていた。

「誰ですか?」

またも同じ質問をする。

その日、男はいきなり振り向くと、藤田さんの左手首を掴んだ。

そして藤田さんの顔を覗きこむ。

男の顔は、緑色に膨れ上がっていた。

「離せ!」

自分の叫び声で藤田さんは目を覚ました。

全身からびっしょりと汗が噴き出ている。

(痛……)

痛みを感じ見ると左手首に痣あざができていた。

「なんだこれ」

痣はまるで誰かに掴まれたように、指の跡がくっきりと付いていた。

次の日、ひとりで眠ることができず、友人に泊まりに来てもらうことにした。

詳しいことは言わなかったが「ゆうれいを見たかもしれない」とだけ伝えると、友人はゲラゲラ笑って信じていないようだった。

その晩もまた同じ夢を見た。

緑色の顔をした男は、藤田さんの手首を掴んだきり離さなかった。

「離せ!」

また自分の叫び声で目を覚ますと、隣で友人が正座をして震えている。何があったのか聞くと「風呂場に男がいる夢を見た」と答えた。

このアパートは十世帯以上入っているのだが、なぜか藤田さんの部屋だけは格安で借りることができた。

当初は「安くてラッキー」と思っていたが、いよいよ不安になり後日、不動産屋へ行き事情を説明してもらうことにした。

藤田さんが入居するだいぶ前のことだったが、この部屋で若い男性が風呂場で「硫化水素自殺」を図って亡くなっていたのだった。

その後は長いこと空き部屋になっていたそうだ。

すぐにでも引っ越しをしたかったが資金もなく、しばらく住み続けたのだが、ここを出るまでの三ヶ月の間、同じアパート内で「硫化水素自殺」で順番に三人もの住人が立て続けに亡くなった。

あれから十年以上経った今でも、藤田さんの左手首はときどき、思い出したように痛むのだそうだ。

シェアする

フォローする