夏休み~深夜の学校のプール(静岡県) | コワイハナシ47

夏休み~深夜の学校のプール(静岡県)

渋谷に、ドリンク代を払えば何時間でもゲームができるというカフェバーがあった。

これはその店の常連の幸一さんから聞いた話だ。

幸一さんがまだ小学生のころのこと。夏休みになると静岡県にある祖父母の家で過ごすことが恒例となっており、その夏もおなじだった。

今から二十五年ほど前のことになる。

この日は町内会の盆踊り大会の最終日で、明るい時間から町全体がにぎわっていた。

家の隣は大きな駐車場になっており、そこが会場になっている。

この町に住む多くの人たちがここへ集まって来るのだ。

幸一少年には夏休み期間限定の、この町だけのともだちが何人かいた。

この日はおとなたちもお酒を飲んだりして大騒ぎになっており、こどもたちは自由の身だった。お小遣いもいつも以上にもらえた。

盆踊り会場へ行くと、そこで前の年にも一緒に遊んだタケオ君に声をかけられた。

「今日、夜の一時に小学校の正門前に来いよな」

こどもたちだけで夜の学校を探検するのだという。親には絶対に内緒だと約束した。

深夜一時に外へ出るなどいうことを考えたらワクワクして、勢いでおばあちゃんにそのことを言ってしまいそうにもなったが、一旦家に帰ると、このことが誰にもばれないように布団の中へ入って真夜中が来るのを待つことにした。

夜八時に盆踊りは終わり、ほどなくして町は静まり返った。

家のおとなたちも十一時を過ぎると眠ったようだ。

幸一少年はこっそりと家を抜け出し、小学校へと向かう。

町にはすっかり人がいなくなっていたが、駐車場や道路にはまだ盆踊りの余韻が残っていた。

暗い道を小学校を目指して歩く。

「おーい」

正門の前で手を振る、ともだちの姿が見えてきた。

男の子が四人とゆかちゃんという女の子がひとり。この五人は同級生で幸一少年と同い年である。

「待ってたぜ。プールに入ろうぜ」

タケオ君がそう言い正門から中へ入って行く。

この小学校は当時、夜でも正門が開いていて、いつでも中へ入ることができた。

幸一少年がここへ足を踏み入れるのは初めてのことだった。

正門を入ると大きな樹があり、その下には二宮金次郎の銅像がある。そこを通り過ぎるとニワトリやウサギのいる飼育小屋になっていた。

「わたし、エサあげる」

ゆかちゃんは近くに生えていた草をむしるとウサギにエサをやっていたが、男の子たちはプールへ向かった。ゆかちゃんも「待って」とすぐにその後を追う。

プールに着くと服を脱ぎ捨て、皆、一斉に水の中に飛び込む。水着は着てきている。準備万端だ。

夏休みなので水もきれいだ。

月が水面に反射してキラキラと光っている。

六人は夢中になって泳ぎはじめた。

おとなのいない深夜のプールでみんな大はしゃぎである。

バシャン、バシャンという水の音とキャーキャー言う金切り声とがプールいっぱいに響き渡っていた。

ところがある瞬間、幸一少年はふと違和感を覚え我にかえった。

大はしゃぎをしているともだちの中で、明らかにひとりだけ様子がおかしな子がいる。

これはふざけているのではない。溺れているようだった。

徐々にほかのともだちもそのことに気がついた。

「ようすけが溺れてる!」

水面であがいている姿を見てタケオ君が叫んだ。

男の子たちは溺れている彼をプールサイドへ引っ張っていくと、水から上がった。上からようすけ君を引っ張り上げようと思ったのだ。

しかし、力を合わせてようすけ君の腕を引っ張り、体を持ち上げようとするが上がらない。

「無理無理無理!」

「動かない!」

口々に言いながら更に引っ張るが、やはり無理だった。そこで、落ち葉などをかき集めるほうきを持って来ると、それで引き上げることにした。

「これにつかまって!」

ようすけ君はそのほうきにつかまり、ようやく上半身を水面に出すことができた。

「もう少し!せーの!」

最後の力を振り絞って、ようすけ君の体を引っ張り上げようとしたときだった。

水中にある、ようすけ君の右足に何かが絡まっている。人の腕が、ぎゅっと絡み付いているように見えて「あッ!」と声を出したのと同時に、ようすけ君の体はプールサイドへ引き上げられた。

ほっとしたのもつかの間、プールの中、水面に鼻から上だけを出した女がこちらをじっと見つめているのに気がついた。

「わあ!」

六人は叫び声を上げると一斉にプールサイドを走り、近くのフェンスをよじ登って表の道路に飛び下りた。

「うあー!」

小学校の斜め向かいにある神社まで、休まずにひたすら走り続ける。鳥居をくぐって境内に入ると、乱れた呼吸を整えるため膝に手をあててゼイゼイと息をはいた。

その間、ゆかちゃんが、

「ごめんなさい。ごめんなさい」

泣きながら言っている。

男の子たちは息を整えながら、

「もう大丈夫だよ」

声をかけたがゆかちゃんは、ごめんなさいごめんなさいと続ける。

「ゆかちゃん、だいじょうぶだって」

幸一少年も声をかけた。

するとゆかちゃんは後ろを指さして言う。

「大丈夫じゃない、ごめんなさい」

振り向くと、鳥居の向こう側に全身がびしょ濡れになった着物姿の女性がじっとこちらを見てたたずんでいた。

「うわー!」

一斉に声を上げ、ゆかちゃんの手を引っ張りながら神社の裏側へ回り込んだ。石段に座ると、皆口々に、

「お前、見た?」

「見た見た」

言い合ったが、その間もゆかちゃんはなぜか「ごめんなさい」と言い続けていた。

「なにやってんだ!」

声が聞こえ立ち上がると、犬を連れて散歩をしているおじいさんがいた。

いつの間にかあたりは白みはじめていて、鳥居の向こう側にいた濡れた着物姿の女の姿はなくなっていた。

どの子も両親や学校の先生にこっぴどく怒られたのは記すまでもない。

彼らにとっては、その夏最大の思い出となる体験だったそうだが、あのとき見た女がいったい何だったのかわからないという。

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