老人ホームの解体現場から憑いてきたもの(栃木県那須市) | コワイハナシ47

老人ホームの解体現場から憑いてきたもの(栃木県那須市)

これは解体工事の作業員をしていた山本さんのお話。

肌寒い秋の中頃、山本さんは那須のとある老人ホームの全解体工事の職長に着任した。そこは妖狐の化身である玉藻前が討伐されて石となったという、栃木では有名な伝説が残る「殺生石」からも近い場所にあるのだが、件の建物は三階建てで、部屋数は三十以上あり、半地下になっている給食室の様な広いキッチンが少々変わった印象だったそうだ。

解体作業は滞りなく進んだのだが、内装解体が終盤に差し掛かった頃、途端に作業員たちから奇妙な話を聞くようになった……それは「人影を頻繁に目撃する」とか「肩を叩かれて振返ると、誰も居ない」というもので、実際に山本さん自身も、立てかけて固定をしていた石膏ボード数枚が風もないのに倒れたり、休憩中にガシャーン! と大きな音がして慌てて音の方へ駆け付けると、搬出する為に三階の外階段にまとめて置いたガラス付きのアルミサッシが全て半地下の踊り場で割れているという事などがあり、なんだか気味が悪い現場だなぁ、と思い始めていた。

内装解体が終わる頃、一階にあった建物の案内板を外したところ、その後ろの壁に描かれていたのは、病院の案内図だった。老人ホームになる前は病院だったのだ……山本さんはこれまでの不思議な現象を妙に納得した。病院という場所は、この世から旅立つ場所として、必ずしも良い思いが出来る訳ではないのだ。

そして内装解体も全ての工程が終わり、現場を確認して回っていた日の事。

山本さんは急にタバコを吸いたくなったのだが、喫煙所に行けば良いものを、何故だかこの時、吸い寄せられるように向かったのは例の半地下の広いキッチン。そこには人が入れるくらいの大きな冷蔵庫があったのだが、山本さんは特に理由もなく、無意識にその中に入ってタバコに火をつけ、吸い始めた。普段は現場内での喫煙など、絶対にしないのにこの時はどういう訳が、このような行動をとってしまったという。

そしてふと我に返り、自分は何をやっているのだろうと、タバコを消して冷蔵庫を出ようとした時……糸のれんをくぐる様な奇妙な感覚が山本さんを包み、蜘蛛の巣かと思い慌てて手で払って半地下を後にしたのだが、その後、すぐに体調が悪くなり、詰所に横になったという。

現場の終業時間になり、会社の事務所に帰ったところ自称「見える同僚」が山本さんを見るやいなや……。

「うわっ! どこ行ってきたの!? ちょっとマズイよ!!」

「えっ? 何? 何?」

「頭……いやっ! 髪の毛! 長い髪の毛!……お前の顔に覆い被さる様に憑いてる……」

山本さんは直ぐに冷蔵庫を出る時の「糸のれん」を思い出すも、それが何なのか分からない山本さんにも、見えるだけの同僚にもどうする事も出来ず、顔面が蒼白になった。

しかしこの時、妊娠していた妻が咄嗟に心配になったので、電話をして腹巻に鏡を忍ばさせるように言って、その後すぐに帰宅した。この「腹巻に鏡を忍ばせる」行為は妊婦がお葬式などの法事に赴く際、邪な霊から守る為に身に着けるという、昔ながらの邪気払い法だ。

山本さんが家に着くと、妻に「臭い!」と言われ、別の部屋で寝る羽目になってしまった……仕事柄、終業後は多少の臭いもあるだろうが、この時の山本さんの妻は別の「臭い」を感じとっていたようだった。しかしそれ以外に特に奇妙な事は起きなかったのだが、間もなくして、山本さんがスーパーの個室トイレに入った時の事……。

ステンレスのペーパーホルダーに黒い奇妙な影が反射して見えた為、瞬発的にはっと見上げるも、何も見当たらない……が、しかしホルダーを見直すと、やはりまた映っては消える、黒い影。その影は家の玄関付近でも度々現れては消えるを繰り返し、果ては視線も感じるようになり、そんな事が暫く続いたものだから山本さんは心身共に弱ってしまった。

しかし。その後、妻はめでたく元気な男の子を出産し、それを境に不気味な黒い影が姿を現す事はなくなったのだという。

出産という眩しいほどの「陽」の出来事により「陰気」な場所から憑いてきた何らかの存在が離れていったのかもしれない。実はこの山本さんの体験に限らず、出産を境に怪異がなくなったというケースは度々、耳にする。

どんな霊でも基本的には人の子……新たな命の誕生という一大イベントには、何かしら大きな影響を受けるのかもしれない。

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