チュッシーの正体はもしかすると……(栃木県 中禅寺湖) | コワイハナシ47

チュッシーの正体はもしかすると……(栃木県 中禅寺湖)

日光市、日光国立公園内にある巨大な湖、中禅寺湖。

約二万年前に男体山の噴火で出来た中禅寺湖は周囲長約二十五キロメートル、湖の標高は千二百六十九メートルで湖の中では日本一の標高を誇る。ここの水は大尻川を経由し、かの有名な華厳の滝へ流れ出るのだが、揃って自殺の名所となってしまっている……。

取材でこの地へ赴いたのだが、バスで小一時間坂を上り続けた後でこの海のような広さの湖が広がっている光景には、違和感を覚えたほどだ。

湖が発見されたのは七八二年の事。

発見者である勝道上人という僧は湖上を歩く千手観音を目撃し、湖畔に木彫りの仏像を祀り、七八四年には神仏習合思想に基づいた男体山を祀る二荒山神社の神宮寺として湖の名の由来である中禅寺が建てられた。そして男体山は関東の山岳信仰の中心となり、中禅寺湖も含めた一帯は一大霊場とされた。

……そんな清い所縁のある地で人生を終わらせたいという思いからか、華厳の滝と同様にこれまで数えきれないほどの人が、ここで自ら命を絶った。

そして、これがとても奇妙なことなのだが……この湖に遺体が沈むとなかなか上がってこない性質があるのだ。現地の方から聞いた話だが、その昔、湖底で武者と思しき甲冑と骨が見つかった事もあったそうだ。

湖最深部は約百六十三メートル。表面上は観光地としての陽気なムードが漂ってはいるが、その深い湖の底には何が沈んだままで、どんな思いが閉じ込められているのか。

この中禅寺湖の底には数多の……。

山岳信仰の中心となった男体山。

庵さん(仮名)はこの中禅寺湖で、こんな体験をした。

東京から友人と二人で泊りがけで観光と釣りをしに訪れた時の事。

一日目で日光を観光し、二日目で中禅寺湖付近のホテルを拠点に奥日光を観光し、帰りの三日目に中禅寺湖で唯一持ち帰りが許されているワカサギ釣りをして帰る予定だった。

その二日目の朝の事だ。

二人ともやけに早く起きてしまい、翌日の釣る場所を見て回ろうという話になり、うっすらと霧が漂う中禅寺湖へ赴いた。

湖の畔を歩いているとやけに太ったハシブトガラスがいたので「この辺は餌に困らんのかなあ」などと話していると、声をあげて飛び立ったのを機に、他にもうろうろしていた鳥たちが一斉に飛び去った。

湖の方に何やら気配を感じて目を向けると、やけに大きな影が見えた。三メートルくらいある。友人にも教えようとすると、声をかけるまでもなく友人の視線はその奇妙な黒い影を見守っている。二人して言葉が出ないままそれを観察し、庵さんが話を切り出した。

「何だよあれ……レイクトラウト(中禅寺湖にしかいない大きなイワナの一種)か?」

「いやあんなでかいわけないじゃん……ありゃチュッシーじゃねえかな」

「何それ?」

「なんだお前知らないのか、この中禅寺湖で目撃されるUMA(未確認動物)だよ。つってもネッシーみたいな恐竜っぽいのじゃなくてサンショウウオみたいな姿らしい」

「それ、サンショウウオなんじゃないの?」と、聞き返そうとした時、その黒い何かはぷかりと水面から浮かんできて姿を現した。

「え……あれってもしかして……死体、だよな……?」

「……通報した方がいいよな……」

「いやちょっと待て、でかすぎないか……」

「膨張した水死体か……?」

おろおろとパニックになる二人。

しかし膨れているというよりも、背丈が高い感じで全身が黒く焼け焦げた死体のような印象だ……。しかし、水から出てきたのに濡れているようには見えず、更に混乱する。

見たくないがあまりに奇妙で凝視してしまう。

そして。

「……こっち、見てるよね?」

「………………」

庵さんは絶句した。かろうじて顔と分かる髑髏のような頭部がこちらを向いており水中か水面でゆらゆらしている長い手足をはっきり確認したところで物凄い眩暈がし、足も竦んでしまっていたらしく、抗う間もなく庵さんは地面へ倒れてしまった。

「おいおいおいおい!」

友人にすぐに介抱されすぐに意識を戻したが、その黒い死体のような何かの姿は消えていた。友人曰く、仰向けのまま長い手足と身体をくねらせまるで蛇が泳ぐようにして底の方へ潜っていき「この世の者でないと思った」と語っていたそうだ。

二人は翌日の釣りを中止にし、色んなお寺や神社を見て回ったとの事……。

そのお陰かは分からないが、その後とくに夢見が悪いなどの影響は残してないようだ。庵さんと友人の会話に出てきたチュッシーの目撃談はわりと少ないのだが、遺体捜索中のダイバーによる証言があるそうで、実は他にも釣り好きの方からチュッシーと思しき巨大な影の目撃談も御寄せ頂いた。

巨大な黒い影が水面下を泳いでいたというのに、すぐ近くに船に乗った人がいたにもかかわらず、気付いてない様子であったという。

チュッシーは未確認生物としての名称だが、自殺が多発する事やその人の(ような)姿を兼ねて考えると、霊的な現象もしくは妖怪のような……例えば、湖から浮かび上がれない魂のようなものが集まり形成した姿なのではないか、と想像を巡らせてしまう。

先述したが遺体が上がってこれないというこの湖の性質は、もしかすると魂にも適用されているのでは……。

……そして、実はこの湖に眠る遺体の死因は自殺だけではない……。

現地の方から聞いたのだが、遺体が浮かんでこないという性質を良い事に、その手の方々が遺体を遺棄するスポットでもあるそうで……。

これ以上は本誌には書けない。闇が深すぎる。

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