お宿での怪異(栃木県日光市 某旅館/某ホテル) | コワイハナシ47

お宿での怪異(栃木県日光市 某旅館/某ホテル)

一九九〇年代初頭。山彦さん(仮名)が日光の旅館の清掃の仕事をしていた時の体験だ。

創業約三百年の川治温泉に入れる宿で、現在はリゾートの名目で運営しているようだ。

その旅館には土日のお客さんが多いときでも使わない角部屋の大きな客室があった。

ゴールデンウィークや正月の繁忙期にのみ使われたそうだ。

お客さんがチェックアウトした後、おばちゃん達が掃除をした後で山彦さんが各部屋を回り、最終チェックをする役目だった。その掃除のおばちゃんというのは毎回決まった人ではなく、毎回入れ替わるシフトとなっていたようだが、口を揃えてかなりの頻度で山彦さんに「あの部屋はなんか変。入りたくない」というような事を言ってきた。

山彦さんが入った時もその部屋だけは空気が違うように感じられ、早くこの部屋から出たいと思っていたが、入るのは年に十回程だったし、人が使ってないから空気の流れが悪く湿気っぽいのかな、ぐらいで大して気にもとめてなかった。

しかし、働き始めて三年目のゴールデンウィークの事。

久々に使われた、件の大部屋に最終チェックに入るとやはり変な空気を感じつつもきちんと掃除がしてあるか確かめる為、押し入れを開けると、奥の角に盛り塩がしてあった。

それを見てやっぱりここの部屋は何かあるんだと思い、早く出ようと玄関に向かったら視界の隅に、何かが、いる……。

今の何だろうと振り向いたら、古い鏡台の前に若い着物か浴衣姿の女性が座り、髪をとかしている……山彦さんは「うわ、やっぱりいたよ……見ちゃったよ……」と思いながら暫くその髪をとかす着物の女性を眺め、気付かれないよう静かに部屋を出た。

それを旅館の上の人に話したところ「バレちゃった?」と言われ、件の大部屋の詳細を話してくれた……。

ある時から旅館の中を着物の女性の霊と思しき姿が彷徨うようになってしまい、その原因で思い当たるのは、備品の新調だった。この旅館は三百年もの歴史がある為に古い備品も残っており、古びた備品を新調する事になったのだが、あの大部屋の古い鏡台なのではないかと考えた。古鏡を元に戻してみたものの、従業員やお客さんが大部屋で見るようになってしまい、クレームが来たので盛り塩をしたという事だった。

今ではリフォームされて内装が変わっているそうで、その怪異が未だ続いているかは分からない。

山彦さんは他にも宿に関する怪異で、こんな話もしてくれた。

山彦さんの父が働いていた、創業七十年程の日光市鬼怒川温泉の某ホテル。今も営業中の為、名前は出せないのだがこんな事があったそうだ。

山彦さんが小学生の頃、父が働くホテルによく遊びに行っていて、従業員とも仲良くしていたのだが、何故だか毎年と言っていいぐらいその従業員の誰かが歳でもないのに亡くなっていく……実は、山彦さんの父もだ……。

流石にホテルの社長も困っていたようだが……元々知っていたのか、それともどう調べたのかは分からないが……どうやら、旅館創建前にその地にいた白い大蛇を殺めて旅館を建てたのだそうで「その大蛇の祟りなのでは」という話になり供養と謝罪を込め、蛇を祀る祠を建てたところ、ぴたりと従業員の死人が出なくなったそう。

栃木には日光市男体山で祀る大蛇や那須烏山市の龍門の滝の大蛇などといった蛇に纏わる伝説が見聞できる為に少し調べてみたところ、鬼怒川の水源である鬼怒沼にも大蛇を殺め災厄を受ける「鬼怒沼の怪」という民話があった。

その内容は小川村の猟師が鬼怒沼に迷い込みそこで出会った大蛇に慄き、猟銃で撃ち殺してしまい、それが原因で麓の村々を洪水が襲い多くの家屋飲み込んだというもの。

その猟師は生き残ったものの、自責の念で発狂し死んでしまったという。

この洪水は一七二三年(享保八年)八月十日に起きた「五十里洪水」で実際にあったものだ。その被害は宇都宮まで及んだというのだから甚大である。

因果というものは我々が「現実」と考える世界で完結するものとは限らない。

あたかも蛇が這う姿のようにうねりながら、あの世とこの世を行ったり来たり……。

その因果や応報はある時、怪異となってこちらの世界で姿を見せるのかもしれない。

シェアする

フォローする