柿の木(栃木県佐野市某所) | コワイハナシ47

柿の木(栃木県佐野市某所)

このお話は舞台となる近隣やその土地に住む方へ配慮し、市名以降の地名の掲載は割愛したいと思う。

結さん(ご本人希望の仮名)は二十代始めに結婚したが上手くいかずに離婚し、住む土地も変えて心機一転しようと考えていたところ、知人の伝手で仕事を紹介された職場へ通える佐野市某所へ移り住んだ。

お金に余裕はなかったが、貧乏な結婚生活で狭く感じたアパートの嫌な思い出があり、小さい頃から親しんだような一軒家で生活をしたいという思いが強く、田舎の安く古い一軒家に住む事にした。家賃は安かったが、特に大きな不自由はなく、思っていた以上に快適な日々を過ごしていた。

……ただ、この地で一つだけ気になる事があった。

駅へ向かう途中に古い空き家があり、カーテンもなく中はぼろぼろで半ば廃墟となりそうな佇まいなのだが、その家から線香や果物が腐ったような臭いがする事があった。

しかしまあ、土地柄どこからか果物の臭いくらい香って来てもおかしくない。それにこういう田舎の方の古いお家は仏壇を大切にしいてるお家も多そうだし、別の家から流れてくる臭いなのかもしれない、と気にしないようにはしていたが、そこでの生活が経過するほど、その臭気の元がよく分からなくなった。あとから気付いたのだが、近くの別の建物もみな空き家のようだし、明らかにその空き家に近づくにつれて強くなるので、やはり不思議に思っていた。

近所で仲良くなった年配の主婦Jさんにこの話をしてみたところ、確かにその臭いは件の空き家から感じるという。そしてとても不思議なのが、夫や息子、弟など男性にはその臭いが感じられないとの事……。

しかもその空き家の庭には柿の木があり、何故だか結さんはそれが怖く感じたという。

ある日の早朝。

早く起きてしまった結さんは散歩に出た際、件の空き家を遠目に見て足が止まった。

柿の木に、何かが絡まっている……。

よくよく見ると……今でも信じられないそうだが、それはミイラのように細い人の形をした「何か」だった。柿の木に囚われたかのように絡まり、空に向かって手を伸ばしゆらゆらと蠢うごめいている……。

最初は何かゴミ袋か何かが絡まっているだけでは、と疑い目を凝らしたが、それが人の形である事を増す増す確信し、声にならないような声を上げて一目散に近くの神社まで走って逃げた。

身体を震わせ、足はがくがくになりながら神社の御社の前で「助けて下さい」と懇願していると、どこからともなくお線香のような香りがしてきた。この小さな神社には人がいる訳でもなさそうだし、何かを焚いてる感じも見受けられない。件の家から香ってくるような臭気とは違い、清々しい印象で、その香りに「もう大丈夫」と言われた気がして、家に帰ったという。

後日、道端でJさんと会った際にこの日の事を話すと、それはその家に住んでいたお婆さんかもしれない、と話し始めた。

Jさんは結さんと件の空き家の匂いの事が気になり、他の主婦友達にも聞いて回ってみたところ、その昔、老婆が自害をして無人のまま放置されていた家だという事が分かった。

人々の言われでは意地悪な性格で、近隣からも疎まれていたそうだ。

家族の有無は分からないという。

そして、自害をしたのは柿の木で首を吊ったとの事だった……。

結さんはその空き家にはもう二度と近づかないように過ごし、暫くして気の合う男性と別の町で同居する事となった為、その町を離れたという。しかし今でも柿の木で揺れる人影を夢に見て声をあげて起きてしまう事があるのだとか。

柿の木に関する怪異や不思議な話を度々聞く事があるが、柿は昔は貴重な甘味であった事から、「猿蟹合戦」でもそうであるようにトラブルの元ともなりやすかったので、そんな「いわく」が沢山生まれ付いたものではないかと筆者は考えている。

現にそういった争いの種と共に歩んだ歴史があるのであれば、もしかしたら人の様々な邪な考えと何かしらが結び付く「流れ」を持っていたのかもしれない。

今でこそ柿が争いの種となる事はないと思うが……。

それにしても、柿の木に囚われていた人影が本当に件の老婆なのだとしたら、不憫でならないのは筆者だけだろうか。その老婆がどのような人生を歩んだかは定かでないが、人は一人になると他人に対して邪推をしやすくなる傾向があり、他者との軋轢を生みやすい体質になってしまう。これも引き寄せの法則というやつなのかもしれない。

そしてそれは、老後に陥りやすい「傾向」だ……。

自業自得と断ち切る厳しさも必要だが、少なくとも死後くらいは忌み嫌わず、供養の心を以て手を合わせたい。

霊というのも、人であり、我々の未来の話でもあり、人を怖がらせたいのでなく、助けを求めているだけなのかもしれない。

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