切っ掛け(栃木県 合戦場) | コワイハナシ47

切っ掛け(栃木県 合戦場)

取材で栃木へ訪れる際、ひと際目につく駅名があった。

「合戦場」駅。一五二三年(大永三年)宇都宮忠綱と皆川宗成軍との戦「河原田合戦」に由来しており、戦死者を弔う塚などもある。何やらアグレッシブな名称だが筆者がこの地へ降り立った日はお祭りで子供たちが踊りを披露しており、和やかな雰囲気であった。

少しぶらつくと古い建物がちらほらと目に入り、これらが合戦が行われていた当時のものと思うと、感慨深いものがある。歴史が好きな人にはたまらない地ではないだろうか。

歴史あるところに怪異ありだ。

折角なので現地の人々に声をかけてみたところ、とあるカップルがこんな話をしてくれた。仮名で武志さんと陽菜さんと記させて頂く。

二〇一六年九月十九日。この日は敬老の日で、陽菜さん宅に住む祖母に会う為に従妹の楓さん(こちらも仮名)が前日から泊まりで遊びに来ていた。楓さんは料理が得意で祖母の好物である蕎麦を茹で、天ぷらを作り、思い出話やトランプなどをして過ごしたのだが、台風が近づく中、遅い時間にならないようにと予定よりも早めて楓さんを合戦場駅まで送る際の事……雨が降っているにもかかわらず、楓さんは「こっちが気になる」と言い吸い寄せられるように小道に入っていった。

そこは合戦場駅からすぐの磐根神社の北参道。

楓さんが一人で先頭に立ち、つかつかと歩いて行くと急に足が止まった。

「うっわ……」

楓さんが、何かを見つけたようだった。

武志さんと陽菜さんは気になって「どうしたの?」と言い楓さんの横へ並ぼうとするが、楓さんが振り返り、いつになく強引な感じで制止された。

「見ない方がいい。あっち行って」

異様な空気に後退りする二人。

しかし、陽菜さんは、見てしまった……楓さんの前に、黒い何かがもぞもぞと動いてる。

「え、何これ?」陽菜さんがそう言うと楓さんに押されて、二人は更に後ろへ退いた。

「黒い何か」が蹲っていたという、磐根神社北参道。

「先に駅に行ってて」

「え、いやほんとどうしたの?」

「いいから!」

そう言われ武志さんと二人で駅へ歩き出したものの、気になって楓さんの方を振返ると傘を放置して何かを見下ろしていた。少し心配にはなったが、言われた通り合戦場駅まで行って、そこで待つ事にした。

「武志、あれ何だろ? 死にかけの動物とか?」

「……何の事?」

「いや見えなかったの? 楓の足元で何かもぞもぞ動いてたよ」

「全然分からん、見えなかった」

暫くして楓さんが駅に追い付いてきて、訳を聞いた。

「いやぁ、あたしもよく分かんないから説明が難しいんだ、ごめんね」

……具体的には話してくれない。

もやもやと腑に落ちない武志さんと陽菜さんだったが、楓さんは「おばあちゃんによろしく」と言って電車に乗って茨城へ帰っていった。

楓さんを見送ると二人で「あんな不思議ちゃんだったとは」などと話しながら武志さんと陽菜さんもそれぞれ家に帰り、陽菜さんはいつになくにこにこした祖母を見て良い休日を過ごせたなと思いつつも、その夜は何故だか全然寝れない……。

暫く居間で本を読んでいると、いつのまにか寝てしまい、気が付くと午前二時を回っていた。そんな事は初めてだったそうで、電気を消した記憶もない。

「私どうしちゃったんだろう」と思っていると、あるものが目に入り、動けなくなってしまった……庭と廊下に面した障子の向こうで、黒い影がもぞもぞと動いてる……。

「ひっ……」

今日、参道の辺りで見たやつに似ている……。

混乱と恐怖の中で黙ってそれを見守る中、これは夢じゃない、現実だと何度も思う中で携帯で撮る事を思いついたが、その黒い影はいつのまにか人の形を成し、ゆらゆら、うろうろと動いている……しかもこちらの方へ来ようとしているように見え、恐怖のあまり微動だにできなくなり、目を瞑って「夢なら覚めて」と何度も願い、目を瞑った。

どれだけ時間が経ったのか分からないが、いつのまにかその影はいなくなっていた。

しかし風や雨の音すら怖くなってきて、武志さんへメールで連絡をしてみたが、もう深夜という事もあり、反応がない。

怖くて仕方なかったが自分の部屋まで行き、あれは夢だったんだと思い直し、ネットを見たり音楽を聴きながら眠りについた。

昼頃に目を覚まし、昨夜の事を思い直してみるとこれは神社で一緒に奇妙な黒い影を目撃したであろう楓さんに聞くべきだろうと思い付き、メールで連絡を入れてみると、すぐに電話がかかってきた。

すると申し訳なさそうな、こんな説明をしてくれた。

楓さんは霊感体質で実は昔から変なものを見てしまうのだが、詳細は分からないが恐らくこの世の者じゃない何かを見てしまう……それらは人と限らないそうだが、恐れを見せずに手を合わせていると、去ってくれるのだという。たまに友好的な雰囲気も感じるらしい。手を合わせる時は同情もせず、ある意味とてもドライな面持ちを見せつける感じで「次へ行きなさいと」漠然と告げるそうだ。動物的な存在には「他へ行きなさい」。

磐根神社の北参道にいた黒い影は元々何だか分からない形をしていたが、去る際に立ち上がるようにして人の形になりテクテクと歩くようにして去ったという。どこかへ去ったと思ったものの、見えてしまった陽菜さんと因縁が出来てしま夜中に来てしまったのかもしれない、という。

……そして、その日は敬老の日であると共に、秋のお彼岸入りの日だから出やすかったのかも、と。その日以来、特に変わった事はないそうだ。

しかしそんな存在がいるのであれば、亡くなったお爺ちゃんもちゃんと命日や敬老の日に御持て成しをしなければと思い、翌年から楓さんとお爺ちゃんの分も蕎麦を作るようになったという。

この日付の事を調べてみると、敬老の日とお彼岸入りが被っただけではなかった……。

慶長元年(一五九六年)、磐根神社がこの地の守護神として祀られた日でもあった。

現れた黒い影が何を意味するのかは、正直言って分からない。

磐根神社に纏わる何かかもしれないし、この地の戦に纏わる何かかもしれないし、お彼岸である事から楓さんと陽菜さんの血縁に纏わる何かかもしれない。

しかし陽菜さんにとっては、あの世にいる愛すべき人たちに思いを馳せる、良い切っ掛けとなったそうだ。

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