感傷、形見(広島市) | コワイハナシ47

感傷、形見(広島市)

感傷(広島市)

グラビアアイドルのA子さんは数年前、友だちの紹介でBさんという男性と知り合った。広島に住む人でA子さんの大ファンだという。その人とはなぜか気があった。

ある時など、東京のホテルで開催したパーティーにまでわざわざ広島から駆けつけてくれたりもした。

しかしそれが、Bさんを見た最後の姿になった。

その一週間後、交通事故で亡くなったのである。

一年ほどのおつき合い。四、五回会っただけだったけれども、すごく大事な人を失ったみたいで、A子さんはショックだったという。

お通夜には出られなかったが、何とか告別式には間に合った。

Bさんのお母さんから「明日、形見分けをしますので、ぜひいらしてください」と声をかけられたので、A子さんは広島市内のホテルに一泊した。

翌朝早目に、Bさんの幼なじみが車で迎えに来た。車にはもうひとりの男性も乗っている。三人で彼の家へ向かう途中で食事をする予定にしていたからだった。

市内を走っていると、スピーカーからテイスト・オブ・ハニーの「今夜はブギ・ウギ・ウギ」という曲が流れて来た。生前Bさんが好きでよく聞いていた曲だ。

「あーっ、この曲、Bさんのこと思い出すね」

物悲しいような、懐かしいような感傷に浸った。

曲が終わった。するとまた「今夜はブギ・ウギ・ウギ」が流れる。

「あれ、同じ曲、何回もダビングしてるわけ?」と聞くと、運転している彼が「いや、それより、別に曲をかけた憶えがないんだけど」と、首をひねっている。そして曲が終わった。

また同じ曲が流れはじめた。

「もうやめない?」

「誰のテープなんだ?」

ちょっと怖くなった。

運転しながら彼はカセットを取り出そうとするが、なぜか出てこない。ストップも、オフもできない。そして同じ曲が繰り返し繰り返し流れる。

「Bさんがいる……」

A子さんの言葉に、ふたりは押し黙った。

途中でファミリーレストランを見つけ、そこに入った。

「四人様ですね」

ウェイトレスの案内に三人は思わず顔を見交わした。

(やっぱりそばにいる)

席に着くと、テーブルに水の入ったコップが四つ置かれた。A子さんたちは、ここであえて亡くなった彼の分も注文することにした。

三人いるテーブルに並べられた四人分の料理。

Bさんの料理とコップはテーブルの中央に置いた。ところがこのコップが食事中、たったひとつ空いた〝彼〟の席に向かってツッツッと移動した。

これを見た三人は、自分の料理だけを見つめるようにして食事を進めた。

食事を終わらせてふっと見ると、空席前のコップの水はなくなっていた。

形見(広島市)

その後、車が動き出すと同時に再び流れはじめた「今夜はブギ・ウギ・ウギ」を聞きながら、三人はBさんの家に着いた。

家に着いて、お母さんに案内されて彼の部屋に入った。

A子さんはクローゼットの中の見覚えのあるジャケットを見つけた。

「これ、いただいていいですか?」

そのポケットから、チケットが出てきた。見ると、東京─広島間の飛行機の往復チケット。日付はちょうど十日ほど前に開いたパーティーの日だった。

このジャケットは、Bさんと最後に会った時に着ていたものだ。

(俺のこと、忘れるなよ)

そう彼が言っているような気がした。

その日の午後、A子さんは広島空港のロビーにいた。搭乗を待ちながら最後のタバコを吸って、空き箱をゴミ箱に捨てた。

羽田空港に着いてロビーに出ると、またタバコが吸いたくなった。

自動販売機の前で、財布を出そうとバッグを開けると中にタバコが入っている。

(マイルドセブン?)

A子さんはマイルドセブンを吸わない。生前のBさんが吸っていた銘柄だ。

タバコは封が切ってあって、一本だけ抜かれている。

「タバコだったら俺のを吸えよ」と、新品の封を切って一本を自分がくわえて、残りを渡してくれたという気がした。

一本欠けたマイルドセブンは彼からの形見分けだと思って今も大事に持っている。

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