写真(東北地方) | コワイハナシ47

写真(東北地方)

満田さんの趣味は、写真撮影である。

とりわけ風景の写真が大好きで、暇を見つけては旅行に出かけて、その土地をフィルムに収めていた。

「たとえ帰宅して現実に戻ったとしても、それさえあれば……」

好きなときに好きな場所に行ったような気になれて、そのことに何とも言えない幸福を感じていたのである。

そして、彼が東北地方のある場所に行ったときのこと。

「ある沼を見にいったんですよ」

その場所は数十の沼が密集しており、沼の色が四季折々によって様々な色に変化する、といった幻想的な場所であった。

しかも季節によっては珍しい花の大群落が見られたりする、有名な湿原でもある。

一時間程度も歩いて回れば、代表的な沼を全て見て回れる散策コースなども用意されていて、観光客に人気のスポットであった。

「ホント、物凄く綺麗でね。もう、何枚撮ったか忘れてしまうくらい……」

彼は夢中になってシャッターを押しまくった。

帰宅して写真を現像していたとき、奇妙な存在が映り込んでいることに気が付いた。

エメラルドグリーンに光り輝く沼の写真。その上に、信じられないようなモノがはっきりと写っていた。

まるで人間の顔を縦長に細工したかのような、長細い真っ白な顔。

両の黒目は爛々と輝いており、横幅の小さな口は不気味に捩じ曲がっている。

そのようなものが、まるで沼の上に浮かび上がっているかのように印画紙に焼き付けられていた。

その写真を見た瞬間、満田さんの背中を冷たいモノが駆け抜けていった。

明らかに、此の世のものではないような気がする。

このようなモノが写ったときは、どうしたらいいのであろうか。

彼はその写真とフィルムを持って、近所にある寺の住職へと相談しに行った。

「こんなもの持ってこられても、困るんですよ」

住職は露骨に嫌そうな表情を見せた。

「たまにいるんですけど、ね。こういうの持ってくる方が。でも、ウチじゃ何にもしてあげられないんですよ」

ここまではっきり言われると、どうしようもなかった。

満田さんはすごすごと引き返すほかなかったのである。

「最近はね、旅行自体に行かなくなってしまいました」

疲れ果てたような表情をしながら、満田さんは喉の奥から絞り出した。

「どうやってもね、写るんですよ。アレが……」

あの沼で撮った写真に写っていた、人間の細長い顔のようなもの。あの日以来、その顔が彼の撮る写真に写り込むようになってしまったのだ。

「勿論、全部じゃないですよ。ほんの数枚なんですけど……」

爛々と輝く黒目と捩じ曲がった口角が妙に恐ろしくて仕方がない、と彼は言う。

「この間なんて、孫が遊びに来たので近所の公園で写真を撮ったんですよ」

何とそこにもあの細長い顔は映り込んでいた。

満面の笑顔で遊んでいる孫のすぐ隣で、空恐ろしい表情をしたまま宙に浮かび上がっていたのだ。

「もう、写真自体を諦めたほうがいいんですかね……」

今現在実害は受けていないが、怖くて怖くて仕方がないと、満田さんは呟いた。

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