マッチ棒のような芸者(茨城県笠間市) | コワイハナシ47

マッチ棒のような芸者(茨城県笠間市)

笠間には、日本三大稲荷といわれる笠間稲荷神社を観光の中心とし、宿場町として栄えていたこともあったため、大勢の芸者さんがいたそうだ。

イッチーさんが幼少のころには、きれいな着物を着て、三味線なんかを抱えた芸者さんが、この界隈を夕暮れの時分にしゃなりしゃなりと歩くのだった。

彼が小学生のときに実際に体験した話だ。

その日は家族で車に乗って出かけていた。

彼の父親が所属していた慈善団体が主催するクリスマスパーティに出席し、夜の十時に終わったあと、父の運転する車で国道355線を宍戸駅方面から笠間駅方面に向かって走っていた。

国道といっても、当時はまだ道路照明灯もなく、真っ暗な田舎道で、深夜ともなれば通る車もまばら、ましてや歩く人などもいないような寂しいところだった。

「お父さん、僕も運転する!」

「ああ、助手席に乗って運転してろ」

スーパーカーブームもあり、イッチーさんは仮想のハンドルを握りながら、助手席で運転の真似を楽しむのが好きだった。

真っ暗な道路を見つめていると、前方に小さく人の姿が見えた。

「誰だろう、珍しいな」

独り言をつぶやくと、じっとその人を見続けた。

道路沿いに歩くその人がとても気になってしまったのた。

こんな時間にこんな寂しい場所を人が歩いているということ自体が気になっていたのもあった。

車が近づくにつれ、その人の容姿がだんだんとわかってきた。

どうやらおしろいを塗ったような真っ白な顔をした女性が、真っ赤な着物を着てこちらに向かって歩いてきているのだった。

見た瞬間、

「あれは芸者さんかな」

とつぶやき、笠間の繁華街でよく見かける芸者さんだなと感じた。

それにしても、この辺は街中からは離れすぎているし、それにこんな真っ暗な道を灯りも持たずに女性一人で歩いているなんて……。

(この人、何か変だよな)

さらに車が近づいていき、その人の姿がはっきりと見えたそのとき、

「うわあああ」

体中に鳥肌が立った。

その女性には肩がなかった。

マッチ棒のように、真っ白な顔から下にストーンと異様に細い真っ赤な着物の胴体が伸びていた。

顔は、両目がつり上がり、口は大きく耳元まで裂けていた。

(人間じゃない……)

怖いながらも、なぜか目がそむけられずに、その光景から目が離せなくなっていた。隣で運転する父は、お構いなしにどんどん進み、よりその人に近づいていくのだ。

ついにすれ違った。

その姿を見て、さらにイッチーさんは体が硬直した。

真横からみたその赤い着物の女は、口に真っ赤な布切れをくわえ、後ろ足で立って歩いている狐の姿だったのだ。

(うう、何かとんでもないものを見てしまった……)

正面から見ると、マッチ棒のような人間の姿、横から見ると、狐……。

しばらく放心状態でいたが、隣の父親は見えていたのか、自分だけに見えていたのか心配になり、聞いてみた。

「さっき通り過ぎた女の人、変だったよね」

すると父親は意外なことを言った。

「ああ、あれは狐が人間に化けて歩いていただけだよ」

と、まるで昔からよくあることのように答えただけだった。

この辺りで生まれ育った大人たちは、狐に化かされる経験はそれほどめずらしいことでもなかったそうだ。

お稲荷さんのご神体が狐というわけではなく、神の使者として狐がいる。中には「ヤコ」といってはぐれ狐もおり、それが悪さをすると言い伝えられる。「ヤコが来るから帰りなさい」と夕暮れになると言われた、という地方の人もいる。ヤコ=野狐という意味だろう。野良猫、野良犬、野良狐から来たのかもしれない。主人につかず、自由気ままに浮遊霊のようにいたずらをするようだ。

こっくりさんもその類でないか、といわれる。

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