おばあさんの声(東京都品川区) | コワイハナシ47

おばあさんの声(東京都品川区)

Cさんは高校生の時、電車通学をしていた。

毎日東急大井町線の同じ時刻に来る、同じ電車の同じ車両に乗る。

ある朝大岡山駅を発車したあたりで「おはよう」と声をかけられた。

周りを見るが、車内に声をかけたような人はいない。

「あれ?」

すると「学校へ行くのかい」というおばあさんの声がする。

「うん」

この日から、おばあさんと朝だけの車内会話がはじまった。会話は高校一年から三年になるまで毎日続いたというが、なぜか決まって大岡山駅から中なか延のぶ駅の間に限られていた。

そろそろ大学受験も近づいたある日、そのおばあさんの事を家族に話した。

「お前、大学受験で疲れてるからそんなものが聞こえるんだ」と父に言われた。

「いや、一年の頃から聞こえてるよ」

「そんなバカな」

するとお母さんが「じゃあ私も一緒に電車に乗って、確かめようじゃないの」と言う。

翌朝、Cさんはお母さんといつもの電車のいつもの車両に乗った。

大岡山駅を過ぎた頃、いつものようにおばあさんの声が聞こえてきた。もちろんいつものようにぼそぼそとおばあさんと話をはじめた。そこへお母さんが「あんた誰としゃべってるの」と聞いてきた。

「えっ、やっぱり聞こえない?」

「聞こえないわよ。一体そのおばあさんて、どこにいるの?」

すると「あたしゃここにいるよ」と、おばあさんが中延駅近くのお寺の名前を言った。その時にそのおばあさんの姿が脳裏に浮かんだ。小さなおばあさんがうつむいて座布団の上に正座をしている。

本当だろうかと中延で下りた。驚いたことに駅の案内板には、確かにその名のお寺があった。

実際に寺の名があるのだから確かめずにいられない。お母さんと行ってみることにした。

「このお寺に、おばあさんはいますか?」と住職に尋ねる。

「おばあさんとは?」

「実は、妙な話なんですが……」と、いきさつを説明した。

「ちょっとあんたたちにお見せしたいものがある」

住職はふたりを本堂とは別の仏間のようなところに案内した。

住職はその仏間にある仏壇の扉を左右に開けて「あんたの話を聞いてると、どうもこれの事をおっしゃっているようだが……」

中には小さな木彫りの老女があった。

「あっ、これです!」

それはまさしく先ほど脳裏に浮かんだおばあさんだった。色も剝はげて古いものだが、その雰囲気と容よう貌ぼうは間違いない。紫の座布団の上に正座をしてうつむいている。

「僕、このおばあさんと三年間、ずっと会話してたんです」

「そうでしたか」

その像は、ずいぶんと昔から供養のために預かっていると聞かされた。

「あんたがこのおばあちゃんと話をしてくださってたんですね。いい供養をしていただきました」と住職。

お母さんは、ただただ驚いている。

住職からは「修行をするとあなたは立派な僧になれますよ」と勧められたが、Cさんは断った。

その木彫りの老女と対面してからは、おばあさんが語りかけてくれることはなくなった。

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