脇腹の傷(兵庫県西宮市) | コワイハナシ47

脇腹の傷(兵庫県西宮市)

知人のNさんの左の脇腹には傷跡がある。

ミミズ腫ばれのような細長い傷跡で、そこだけプックリと膨らんでいる。

本人はケガをした覚えはなく、物心ついた頃からそれはあったという。

三十年ほど前の話。

当時小学生だったNさんは、友だち五、六人と甲子園球場そばにある阪神パークのデラックスプールに行った。

泳いでいると、ドンと誰かにぶつかった。

水から顔を出すと、五十歳くらいのおじさんが立っている。

「すみません」とNさんは謝ったが、おじさんはNさんの顔をしげしげと見つめ、今度は脇腹の傷に顔を近づけて「あぁ、あぁ」とうなずいている。

そして、丁寧に御辞儀をはじめた。

小学生の男の子にぺこぺこ頭を下げている五十歳くらいのおじさん。

当のNさんも、事の意味がよくわからない。ただ、なんとなく「あの時はどうもすみませんでした。申し訳ありませんでした」と言われているような気がした。何度も何度も頭を下げていたおじさんが最後に深々と一礼すると、向こうで泳いでいる家族の元に戻って行った。

「なんやろ、あれ」と思っていると、一緒に泳いでいた友だちが「お前、何であんなえらそうなことを言うんや」とびっくりしている。

ぺこぺことしきりに謝っているおじさんに向かってNさんが、図太い大人の声で「もうよい、もうよい、済んだことだ、気にするな」と、言ったというのだ。

全員、その声に驚いた。

だがNさんには覚えがない。

「いったい何が〝もうよい〟のか気になりますよね」とNさんは言う。

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