笠間稲荷と氏神様と坂本九(茨城県) | コワイハナシ47

笠間稲荷と氏神様と坂本九(茨城県)

笠間稲荷神社を愛した坂本九さんの話である。

佐白公園の前の道を佐白山頂上方面にあがると、山の中腹くらいに坂本九さんの実家がある。広い野原に小さな木造の家、もう誰も住んでいないせいもあり、朽ちた木造の家は荒涼とした藪や山の一部分になりかけている。その向かいには石段を上った神社が見えた。九氏のお母様が毎日自分の命と引き換えに、九氏の成功を祈った氏神様だろうか。

命を引き換えにと願ったばかりに、九氏の成功の影に母の死があったという。

僕はその石段の途中までで足を止めた。どうにも本殿までは足が前にすすまなかった。ここも藪に覆われた自然の地形にできたつくりなので、石段も危険に感じたのだ。入り口には九氏の歌碑とレコード型の碑がある。

土浦での常磐線脱線事故で助かった坂本九氏家族は、この家に住み、笠間の繁華街に繰り出していたのだろう。芸者さんたちが練り歩く華やかな時代の笠間にいて、九氏は芸能の道での夢を描いたのか。

大草原の小さな家で、たくさんの兄弟と母の手一つで育てられ、苦労はいかばかりかとおもんぱかる。

しかし僕の目に見えたものは、あの笑顔のままの幼い九氏が洗濯物を干す母にしがみついたり走り回ったりする愛らしい家族の姿だった。

なぜ命を引き換えにしても息子の九氏の成功を祈ったか、それはこの実家を見に行ってもらえれば、わかることだと思う。

また、日航機墜落後、遺体の身元判別をした医師の関係者に会って話を聞いた。坂本九氏の遺体には、笠間稲荷神社のお守りが刺さっていたという噂話は、「遺体の近くにあったとは聞いています」とのことだった。

損傷のひどい遺体から身元を判別するのは、簡単なことではない。

「坂本さんは特別な治療跡があったので判別しました。歯の治療の跡で判別できたと聞いています」

こうした状況で本人と判別させるのは歯が重要になるそうだ。日航機の機長の遺体も、歯だけで判別できた。

「なぜ、歯だけでわかるんですか? ひとりひとり違うとは言いますが、他でも見分けることはできないんですか」

「一銀さん、事故の遺体を見せましょうか、見たら納得しますよ」

見せられた別の事故遺体は、真っ黒に焼けた肉の塊に白い歯だけが突き刺さったようなものだった。歯しか焼け残らないのだ。

坂本九氏の御巣鷹山でのお墓は「九、いいね」の意味でついた数字の区画にある。笠間市では今も九さんを偲び、時間になると彼の曲が流れる。

生きたときも亡くなったときのことも、そのあとのことも、よく知る笠間のファンの皆さんが語り続けてくれている。

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