定説通り(宮城県) | コワイハナシ47

定説通り(宮城県)

宮城県に住む、有田さんが体験した話である。

二十年近く前、彼女が高校を卒業してまだ間もない頃のこと。

友人の一人が、自動車免許を取った。

〈折角だから、みんなでどこかへ出掛けたい。とはいえ、仙台の街中を走るにはまだ不慣れである。さりとて、近所をぐるぐる走るだけでは味気ない〉

――だから、心霊スポットへ肝試しに行こう、という話になった。

車二台に分乗して夜道を走る。

目指す先は隣町。丘の上にある、この辺りでは有名な廃屋であった。

元々は、この地で操業していた精密機械メーカーの社員寮であるらしい。

かつてその寮には看護師も勤務していたが、見習いの一人が自殺を遂げたという。

その霊が、未だに建物内を彷徨っているのだ……と友人は訳知り顔で話した。

わずかばかりの街灯と、弱々しい月明かり。

そこでは、アパート風の建築物が彼女たちを待ち構えていた。

くすんだコンクリートの壁が、光の加減か、かさぶたのように見えた。

「私、残るわ」

妙に怖くなった彼女は、建物の中に入ることを拒んだ。

何人かが同調して、結局、肝試しグループと居残りグループに分かれた。

探検を選んだ友人たちは、きゃあきゃあ言いながら中へと入っていった。

暗闇と沈黙が辺りを支配する。

自分たちの他に、生者の気配の感じられない空間。

こんな所では、ただ待っているだけでも気味が悪い。

どのくらいの時間が経っただろうか。

視界の隅を、何かが動いた気がした。

一人、二人、三人……。

屋上に人影が立つ。

その中の一人がこちらを向いたように見えて、彼女は手を振った。

誰に手を振ってるの。怪訝な顔で友人が訊いた。

「ねぇ、凄いよ。みんな屋上に出てる」

四人、五人、六人……。

立っている者。しゃがみこむ者。手を振るこちらには気付いていないようだ。

その誰もが、全身タイツを着込んだかのように真っ黒い。

山から湧き出した闇をまとったように、顔も何も分からない。

ただ、黙々と動いている。

七人、八人、九人……。

「あれさ。違うんじゃない?」

誰が言ったかは定かではない。

けれども、そんなことはもうどうでも良かった。

あんな真っ黒いものが、人間であるはずがない。

懐中電灯も持たずに、どうやってあんな場所に立ったというのか。

そもそも、中に入った人数よりも多いじゃないか。

ほとぼりも冷めた頃。

まさかそんなことは、と思いながらも彼女は訊いてみた。

「部屋の中の探検に精いっぱいで、誰も屋上になんて出てないよ」

案の定、そんな答えが返ってきたという。

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