青と白(宮城県) | コワイハナシ47

青と白(宮城県)

宮城県在住の工藤さんが、二十年ほど前に県北部で体験した話である。

当時彼女は看護学校の学生だった。

授業を受ける学舎と実習を受ける病棟とを結ぶ渡り廊下から、中庭を見下ろした。

中庭には担架が置かれ、水色の寝巻をまとった男性が横たわっていた。

隣では看護師が身を屈めて、寝巻を脱がせてその身体を黙々と拭いている。

ああ、遺体を清拭しているのだな、と思った。

けれども、何もこんな所でやらなくてもいいじゃないか。

そう思っていると、看護師が不意に顔を上げてこちらを向いた。

自分だった。

えっ、と声を上げるのと同時に、担架からだらんと足がはみ出した。

真っ白い、磁器のような足であった。

そこで工藤さんは目が覚めた。夢を見ていたのである。

こんな気持ち悪い夢を見るなんて、きっと疲れているのだ。

その日の夕方。

工藤さんは病棟一階にあるナースステーションで、ミーティングに参加していた。

実習の内容を振り返り、発表をしようとしたそのとき。

目の前のガラス窓の向こうに、さっと黒い影が降った。

セメント袋を思いきり土間に叩きつけるような、いやそれよりももっと大きな音がして、地の底から湧き出るような振動が足元に伝わった。

飛び降りだ。その場にいた全員が駆け出した。

中庭に横たわる、水色の寝巻をまとった男性。

四階建ての病棟の屋上から飛び降りたようであった。

工藤さんの説明によれば、飛び降り自殺を試みた者は落ちていくうちに頭が逆さになるが、四階程度の高さでは逆さになる前に着地するらしい。おまけに、中庭は土がむき出しになっていた。

だから。

うう、うう、うう。

はだけた胸が上下するのに合わせて、苦しそうな呻き声がした。

けれども、工藤さんたち実習生には手の施しようがなかった。

担架が運ばれてくる。看護師長が男性の身体を乗せる。

そのとき、バランスが崩れたからなのか担架からだらんと足がはみ出した。

真っ白い、磁器のような足であった。

それを見て工藤さんは思い出した。昨日自分が見た夢を。

中庭。水色の寝巻。真っ白い足。ああ、夢と同じじゃないか。

工藤さんは語った。

「あの声が忘れられないのです」

死にきれなくて、呼吸困難に陥った男性の呻き声が。

そして、「もう少しで退院なのに何故こんなことを」と、意識不明の人間に向かって叱り続ける看護師長のキンキン声が。

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