仙台市在住の会社員菊池さんの、お母さんによる体験談である。
十五年ほど前の夏のこと。
マンションの窓を開けたまま、眠りに就いていた。
どのぐらい眠ったかも定かでない頃、ふと意識が浮上した。
全身がベッドに張り付いたように、身動きを取ることができない。
脂汗が、身体を伝う。
と、その身体の上空を、何かがすうっと横切った。
目が開いているかも分からぬ真っ暗闇であったから、その正体は分からない。
部屋の空気を微かに揺らし、そのまま窓から出ていった。
そのとき。まるで映画のように、一つのシーンが部屋に浮かび上がったという。
見知らぬ幼い女の子がブランコを漕いでいる。
一回、二回、三回……。大きく揺れた直後、ぽおんと空中へ投げ出される。
そのまま身体は地面に叩きつけられて、そこで映像はぷつりと切れた。
怖いとか悲しいというよりも、全く意味が分からないまま朝を迎えた。
――近所の公園でそうした事故があったのですか。
と、私は問うた。
公園の景色に全く見覚えはなく、事故の噂も聞いたことはないとのことだった。
「うちはそういうものの通り道なのかもしれません」彼女は付した。
「わざわざ七階を通らなくても良いものを」
菊池さんは、そう笑った。