ひゃっと(東京都新宿区) | コワイハナシ47

ひゃっと(東京都新宿区)

福島県に住む、青木さんの体験談である。

二〇〇〇年代初頭のこと。

当時専門学校生だった彼女は、夏休みに友人を訪ねて上京した。

久しぶりの再会である。積もる話がある。一日では終わらない。

そこで、新宿にあった外資系の高級ホテルに二人で宿を取った。

夜中。時計は既に一時を回っていたが、彼女たちはまだ話し込んでいた。

よくもネタが尽きないものだが、お喋りは楽しいものだ。

ふかふかのツインベッドの、こちらと向こう。

滑らかなシーツに身を委ね、クッションにもたれて。

窓の向こうにそびえる超高層ビルの明かりも、大分減ってきたなと思ったとき。

四角く切り取られた夜景の中を移動する、丸いものの存在に気が付いた。

歩くような速さで、左から右へとまっすぐに動いている。

風船であれば、上へ浮かんでいくはずだ。

鳥であれば、もっと早く飛ぶはずだ。

いったい何がと脳が分析をする前に、視覚がいち早くその正体を捉えていた。

男の首、である。

部屋から漏れる光に照らされて、男の首が新宿新都心に浮かんでいるのである。

外に誰かが立っているのではないか。

いや、そんなことはない。

十七階の客室である。窓の外に足場はない。立てるはずがない。

彼女自身の顔がガラスに映りこんでいるのではないか。

いや、そんなことはない。

五分刈りに丸めた頭。痩せこけた頬。落ちくぼんだ、けれども妙にぎらついた両眼。

彼女の顔とは似ても似つかない。

男と、目が合った。

そのとき彼女は、これは現代の者ではないな、と思った。

理由はよく分からないが、直感でそんな気がした。

どのぐらいの時間が過ぎたのか。

青木さんと、首だけで浮遊する男は、しばし見つめ合っていた。

そして気が付いたときには、首はどこかへ去っていた。

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