下北沢に住むYさんが「昨日、気になることがあったんです」と言う。
「何が?」と尋ねると、「半年前に……」と話しはじめた。
半年前、Yさんが夜帰宅した時、マンションの廊下に妙なものを見つけた。
直径四十センチほどのほこりを固めたような灰色の玉がある。それが何か迷っているかのように、左右にゆらゆら転がっている。
廊下には風が通り抜けている。それなら風に吹かれて転がっていきそうなものなのに、まったく関係なく左右に揺れている。
(何だろう?)と思いつつドアの鍵かぎを開けると、その玉は音に驚いたかのように斜め前のドアの下にすっと入っていった。まるで水が吸い込まれるようだったという。
驚いて玉の入った部屋を見ていたが、留守なのか、しんとしている。
仕方なく自分の部屋に入ったが、ドアの下を見ると段差を利用して紙一枚入らないように工夫してある。
こんな隙間のないところにどうやって入ったのかしら?
──と不思議に思ったのが半年前の話だ。
「昨日なんですけど……」
帰宅すると半年前その玉が入った部屋のドアの左右に白い紙が敷かれ、十センチもの円錐形の盛り塩が高々と立っていたそうだ。
「リキュールのグラスにでも塩を詰めて作ったんでしょうけど……」
それにしても、何があったのかひどく気になるという。
「気になりませんか?」と尋ねられ、
「なるに決まっている!」と、つい大声を出してしまった。