かぶそ(石川県) | コワイハナシ47

かぶそ(石川県)

北陸の話。

Iさんのおばあさんが若い頃、というから大正あたりの話かもしれないという。

ある冬、おばあさんは石川県の富奥村から金沢の近江町市場へ、香箱蟹を買いに行った。

市場で蟹を買い、藁わらを編んだ網に入れて家路に着いた。網からはまだ生きている蟹の脚だけがにょっきり出て動いている。

途中、雪道の中で笠を被った知り合いのおばさんに会った。

「あら久しぶりね」と挨拶をした。

本当に久しぶりだったので、ついその場で長い立ち話を始めた。

ひとりで雪道を歩いていたせいもあって、妙になごんだ。

「そしたら」と、別れて家に帰り、網を見て驚いた。

蟹がない!

「ああ〝かぶそ〟にやられた」とよく見ると、網の中に甲羅だけが残っていて、はみ出した脚は全部むしり取られていた。

生きた蟹だった、網が引かれたり、バリバリッと大きな音がして気づくはずなのに……。

おばあさんはひどく残念がったそうだ。

同じ頃、同じおばあさんの話。

やはり近江町市場に行った時のこと。魚の干物を数匹買って、頭を紐で通して帰り道を急いだ。

途中、蟹の時とは別の知り合いのおばさんと会った。

冬、人と会うのはうれしいのでつい立ち話をする。

「そんなら」と、別れたが、この人は話をしながら後をついてくる。

立ち止まって話をしてまた別れるが、やはり話をしながらついてくる。

これは〝かぶそ〟だと気づくと、ちょっと怖くなって足を速めた。おのずと紐を持つ手に力が入る。ついてくるおばさんは何か盛んに話をしているが、よく聞くとさっき自分が話したことを、そのままなぞっている。

そのうち、何をしゃべっているのか、人の言葉ではなくなってきた。

とうとう家の玄関まで着いた。魚は無事だ。

まだ後ろについて来ている。

ここは私の家だからもう帰って、と戸を閉めた。

やれやれと手に持っていた干物を見て「あっ」と声が出た。

いったいいつどうやって紐から抜いたのか三匹だけなくなっている。

「またやられた」と、悔しがったという。

おばあさんからあの手この手で何度もだまされた話をよく聞かされたので、「かぶそはおばあさんをよく研究しているもんだ」と、Iさんはつまらない感心をした。

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