それから一年後、つまり去年の夏の終わり頃。
関西ローカルの深夜番組から出演依頼があった。これも北野誠さんの番組で、ゲストをタクシーで送迎して、その車中でトークをする番組。しかも、この時はスペシャル企画でワゴン車に乗り込み、数人で心霊ツアーをするという。
送られてきたファクスにA子とある。例のA子さんだ!
今度は大阪市内から東大阪へと心霊スポットを求めて走った。
走行中、私の方から例の話を切り出した。
「実はねA子さん、去年の京都の幽霊マンションのことなんやけど……」
奇妙なことにA子さんは、内容はおろか電話をしたことすら覚えがないという。しかしこんな話をはじめた。
「あそこは説明できないことばかり起こりますから。実はね、Sさんって私の親しん戚せきなの。それで、撮影所で時代劇のレギュラー出演してた半年くらい、そのマンションに居候していたんです。そしたらね……」
マンションは、八階建てで大通りに面していた。スーパーや駅も近くにあって実に便利な立地条件だ。部屋はその最上階で眺めは最高。間取りは台所と十畳のリビング、六畳間の洋室がふたつ、四畳半の和室が一間。しかも家賃が他の階の半額だという。あまりの安さに変だとは思ったけれど、広いし仕事場からも近いので仲間がいつも集まる。A子さんもそんなにぎやかな雰囲気が好きで京都に来るたびに、そこで居候を決め込んでいたという。
ある夜、男の人たちが寝ている部屋から叫びとも呻うめきともいえない声が聞こえた。それが尋常ではない。
「ねえ、ゆうべ、どうしたの?」
朝になって聞くと、
「出たんだよ」と言う。
「えっ?何が?」
それ以上答えてくれない。そんなことが何度もある。
また、みんなで夕食を食べていると、それまで談笑していた男性たちが、表情を変えて、急ピッチで酒を飲み出す。「どうしたの?」と聞くと、顎あごをしゃくるようにして「ほら、あの子が歩いてるやん。酒飲んで酔っぱらったら寝れるやろ」と、妙なことを言う。
「あの子って?」
「あれ、見えへんのか?」
そんなことが日常的にある。
なぜかその場にいた女性には何も見えないので、女の子同士顔を見合わせて首をひねるばかりだった。
ある日、撮影所に書類を提出することになった。そこで居候しているマンションの名と住所を記入して提出すると、係の男性が「えっ!」という顔をする。親戚とはいえ男性のマンションに住んでるってのはマズいのかな、と思っていると「よおこんなとこ住んでんなあ。ここ、あの幽霊マンションやろ。撮影所でも有名やで」と言われた。
京都の幽霊マンションシリーズ vol.1
→人が寄る場所(大阪府)※この話