移動中のワゴン車で、私とA子さんの会話をディレクターがじっと聞いていた。
「その話、ほんとうですか?」とどうやら興味を持ったらしい。
「ほんまほんま、俺も知ってる」と誠さん。
「それ、どこですか?行ってみませんか?」
「いや、それはやめた方がええで。この前は一部始終俺らの行動、見張られてたんやから」
「私も絶対イヤ」とA子さんも首を横に振る。
「それに、今はもうSさんそのマンションにいないし」
「えっ、引っ越したん?」と誠さん。
「半年くらい前かな」
「じゃあ、取材は無理か……」とディレクターがつぶやく。
「いや、行きましょうよ」
促したのは私だった。
「中山さんは話を知ってるでしょ。行かん方がええんとちがうかな」
誠さんの意見を尻しり目めに私は言った。
「去年は部屋に入って、テレビカメラで幽霊を撮ろうとしたのがいけなかったんでしょ?だったらマンションの外観だけ撮りましょうよ。それなら部屋にいる幽霊を撮るわけやないし、まあ、それでも来るなとその幽霊が言うんやったら、そのマンションに着く前に何かが起こります。もしそういうことになったら、その時考えましょう」
私の理屈には何の根拠もない。
そのマンションがどこにあるのか、どういう建物なのか、そこに一時住んでいたA子さんがいるのだから、見てみたいという気持ちを抑えられなかったのだ。
「外観だけですか……ちょっと怖いですけど、京都まで足をのばしますか」
ディレクターの決断に、我々を乗せたワゴン車は夜の高速道路を京都に向かった。
「このあたり……、あっ、ここ、ここです」
京都市内の通りを走っていた我々のワゴンが停車した。
マンションが目の前にある。一階が店舗になっている。夜中なので中は真っ暗だが、店に入るには道路から階段を下りなければならない。つまりこのマンションの一階部分は半地下にあるのだ。
正面に階段があって、半階分上るとエレベーターホールに出る。
テレビの収録がはじまった。
「Sさんの住んでた部屋ってどこ?」
誠さんがA子さんに質問する。マンションの上の方を指さし、「部屋は、あそこだったんだけど……」
と、その瞬間、誠さんの表情が変わった。
「今の何や!」
「今のって?」
「聞こえたやろ?何か上からひゅーっと落ちてきて、ドサッて音がしたがな!あれ何の音?」
私とA子さんは顔を見合わせた。本当に何も聞こえなかったのだ。
すると、音声さんがゆっくりヘッドホンをはずして、
「聞こえました」
そしてそれは、微音ながら確かにビデオテープに録音されていた。
京都の幽霊マンションシリーズ vol.1
→夜中のロケ(京都市)※この話