名前(京都市) | コワイハナシ47

名前(京都市)

休日、引っ越し祝いだと撮影所の仲間が遊びにきた。十畳のリビングで賑にぎやかに飲んだ。

朝になると酔った女性ふたりが「寝たい」という。

「じゃあ、俺の部屋で寝ろよ」と、Sさんは四畳半の部屋にふたりを寝かせた。

三十分ほどたった。スッと襖ふすまが開いて寝ているはずのひとりが部屋の前に立っている。

「おっ、復活か」とそばまで行くと、目にいっぱい涙を浮かべて、ぶつぶつとひとり言を言っている。

「どうした?」と声をかけたが、正面を向いて立ったままぶつぶつと何かを呟いているだけ。

「おい、それお経だ」と、誰かが言った。

よく聞くと、「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」を繰り返している。

「だいぶ酔っぱらってるな。おい、誰か彼女、家まで送ってやれよ」と、その女性はタクシーで帰らせた。

そしてまた、みんなで飲み直した。

しばらくすると、いつの間にかもうひとりの女性も部屋から出ているのに気がついた。

「お目覚めか?」とみんなで声をかけたが、彼女も立ったままぴくりとも動かない。

しん、としてみんな顔を見合わせる。

「どうした?」

「ねえSさん、あの部屋、誰がいるの?」と、ひとすじの涙を流した。

彼女が言うには、寝ているとはっと目が覚めた。すると、目の前の窓から女の人がこちらを見ている。

きれいな二十歳くらいの女性だった。

(美人ね、誰かしら?)

瞬間、すうっと壁を抜けて部屋に入った。

驚いたが身体が動かない。

女は宙をすべるようにまっすぐ彼女に近づいて、ゆっくりしゃがむとその顔をピタッと彼女の顔に寄せた。

「わたし、みさおって言うの」

自分から名乗った。

「わっ」と声を上げると、もう女の姿はなかった。横を見ると、寝ていたもうひとりの友だちもいなかった。

「ねえ?みさおって、誰?」すでに目は涙で真っ赤になっていた。

「ここは怖いからちょっと表に出よう」と、Sさんはみんなを誘って近くの喫茶店に入った。

そこではじめてあの四畳半の話をみんなに語った。

「でも、みさおって、誰なんだろう……」

と、喫茶店のマスターが声をかけてきた。

「あの、お客さんたち、ひょっとしてあそこのマンションにお住まいじゃないですか?」

「ええ」とSさん。

「八階ですか?」

「…………」

「ああ、やっぱり……」

そして、いろいろ迷ったような表情をしながらも語りはじめた。

「みさおさんっていうのはね……あのマンションの持ち主の娘さんなんですよ。生前の彼女、私知ってるんです。綺き麗れいな子でね。八階の一室を親からもらって、そこに住んでたんです。それが二年ほど前のことかな。何があったのか、飛び降りたんです。それ以来、噂になってね、出るって……」

Sさんは言う。

「私の前に急に現れて、電話をしろ言うて……中山さんや北野誠さんに、来たら後悔させてやると言ったのが、そのみさおさんなんです。でも……」

「でも、どうしたんです?」

「出るのはみさおさんだけやないんです」

えっ!?

これまでずいぶん取材してきたが、はじめて絶句した。

京都の幽霊マンションシリーズ vol.1

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