Sさんがその部屋の日常を語ってくれた。
Sさんの四畳半の襖を開けると廊下で、すぐ右手が玄関、左手にリビングがある。
その廊下を、時々知らない人たちが通る。
商店街でも歩いているように通るのだという。主婦もいれば、学生もいる。工場のおじさんも通る。スーツ姿の男性も通る。それに混じって鎧よろい武者や汚い着物姿で髷まげ頭の人たちもいる。
玄関は閉まったままなのに、玄関から次々と現れてリビングへ、西から東へと向かう。リビングから玄関へと逆行する者や、リビングの中にまで入る人はなぜかひとりもいない。どうやら廊下を歩いてリビングのドアの前で消えてしまうらしい。
玄関からリビングへの廊下の途中に洗面所がある。面倒なので、普段はドアを開け放していた。
そこで顔を洗っていると、鏡に、後ろの廊下を通る見知らぬ人たちの行列が映る。しかし、洗面所のドアを全開に開け放すと廊下を完全に塞ふさいでしまう。つまり、通行人たちはそのドアをすり抜けて、リビングへと向かうのだ。
京都の幽霊マンションシリーズ vol.1
→通行人(京都市)※この話