「このマンションはNという友人とふたりで住んでたんです。僕の部屋が玄関に近い四畳半で、ふたつある六畳の部屋のひとつをNが使ってたんです。……ここには別なものがいたみたいでした」
「別な女性ですか?」
「いえ、中年の男……らしいです」
「?」
「当時からお互いなるべく詳しくは話さないようにしてたんです。怖くて住めなくなるので。別の機会にNに直接取材していただく方が……」
と言っていると、Sさんの携帯電話が鳴った。
「誰や、こんな時に」と、携帯の表示を見てSさんが驚く様子がこちらにも伝わる。
「中山さん、すごい!Nです!Nからの電話です。半年ぶりですよ、彼と連絡とれたのは。何でこんなタイミングに!ちょっと待っててください。いいところに電話してきたな」と、マンションの取材を受けているところだとNさんに伝えたうえで、私に電話をかわってくれた。
「Sさんとは半年ぶりだそうですね。久しぶりの連絡に割り込んで申し訳ありません」
自己紹介をした後に謝ると、Nさんは恐縮したように言う。
「それがね、別に用はないんです。Sに電話せなあかん、と、今、急に思い立ちましてね」
改めて取材していた内容と連絡が入ったタイミングの説明をした。
Nさんは「……話せということですね、これは」とひとことおいて語りだした。
「Sの部屋は美女でしたが、僕のところはおじさんでした」
「おじさん?」
「普通のおじさんですよ。帽子を被かぶって、作業服を着てるんです。そんなのがね、一週間に二、三度の割合で出てたんです。部屋に襖ふすまをはずした押し入れがありましてね。夜中、ふっと目が覚めると、その押し入れの段のところに男がしゃがんでる。そして、ポン、と床に飛び下りると、ゆっくりと向かいの壁に向かって歩いて行き、ぶつかる寸前に消える。振り返ると、もう押し入れの段のところにその男がいる。これが三回連続するんです。現れる時は必ず三回。
最初はね、怖かったですよ。
でも慣れるんですね。ただ部屋を横切るだけですから。ところがある夜、その男の通り道にわざと布団敷いて寝てみたんです。どうなるのかと思って、そしたら男が現れて、いつもの通り壁へ向かうんです。でもその通り道に僕が寝ています。そしたらね、ぽおんと、僕を飛び越したんです」
同じことを繰り返してるだけじゃないんだと、Nさんはひどく驚いたという。
京都の幽霊マンションシリーズ vol.1
→もうひとりの住人(京都市)※この話