ある午後のこと。Sさんがマンションに戻ると、知り合いの女性が五人ほどリビングに集まっていた。
「どうしたんや」と聞くと、みんなで映画『リング』のビデオ観賞をしていたという。
どうせなら怖い場所で見ようと、半ば肝試しのつもりで来たという。
夜はさすがに怖いから、と昼間に集まって観ていたらしい。
だがよく見ると女性たちは目に涙をためている。
聞けば、観ている間、奇妙な物音はするし、コップが次々と割れる。まっぷたつにパリンと割れるのもあれば、バーンと粉々に割れたコップもあった。
「私らもう帰るけど、ビデオここに置いとくね。Sさんも見たら?」
ビデオを置いて帰ってしまった。
いつもは誰かが居候しているのに、その日に限ってSさんひとりだった。
あほやな。誰がこんな部屋で、ホラービデオなんか観るような命知らずなことするかいな。
だが、Sさんも映画業界人、ホラーとはいえヒット作は観ておきたい。外を見るとまだ空は明るい。
昼間やったら、大丈夫かな……
エンドタイトルが流れ出した。
最後まで観てしもうた……
気づくともう日が暮れはじめていて、外から入る夕日だけがリビングにある。
ふっとSさんは気がついた。
クレジットが流れる画面に、座っている自分の姿が夕日に照らされて映りこんでいる。その真後ろに十五、六の人の顔が、夕日に照らされている……。
振り返れない。
振り返らずに手探りで廊下に出て、そのままマンションを飛び出した。
この時ばかりは三日ほど、マンションに帰ることができなかった。
京都の幽霊マンションシリーズ vol.2
→ビデオ(京都府)※この話