滑り女(岐阜県) | コワイハナシ47

滑り女(岐阜県)

滑り女(岐阜県)

十年前の夏。

K君は中学の合宿で岐阜県にある高原のホテルに泊まった。

夕方になって、仲のいい四人で探検しようとホテルの裏山に入った。

山道の両側には背丈ほどもある高い草が生えている。

しばらく行くと門が見えてきた。鎖で閉鎖してあり、そこから奥へは行けない。

「神社かなにかがあるんじゃないか?」

門は鳥居ではなかったが、なんとなくそんな気がした。

どこかに入れるところはないかとうろうろしているうちにあたりが暗くなってきた。

仕方ないもう帰ろうと、みんなでホテルに戻った。

その夜、ホテルの別館で、先生たちが怖い話を持ちよって、生徒たちに怪談会を催すことになっていた。

K君たちの部屋がある本館の三階と別館の四階は長い渡り廊下で結ばれていた。妙なことに、そこには灯あかりがなかった。

K君たちはその真っ暗の渡り廊下を通って別館へ向かった。

左右のガラス窓から月明かりが入り、それを頼りに歩くことができた。

先生たちの怖い話が終わって、みんな渡り廊下を通って本館へと戻る。K君たちは、一番最後に別館を出た。

まるで渡り廊下をふさぐように四人並んで渡っている時だった。廊下の先に大人の人が立っていることに気がついた。と、その人が立ったままの姿で、廊下の中央を滑るように近づいてくる。

月明かりの前を通るたびにスカートの影ができる。女の人だ。

近づいてくるのに足音ひとつしなければ、衣きぬ擦ずれの音もない。

K君たちはその女の人のために道を開けて、すれ違った瞬間に振り返った。

誰もいない。

「女の人は?」

「見た。けど、いない……」

あわてて本館へと走った。

その夜中、K君は別館に財布を忘れたことに気づいた。

先生に許可をもらってフロントから鍵かぎを預かると、懐中電灯を手に別館へ渡り、財布を持って本館へ戻ろうと、渡り廊下へ出た。

月が落ちたのか、窓にももう月明かりはなく本当の真っ暗になっていた。

ずっと先に女が立っている。真っ暗の中なのに全身が見える。

さっき見た女の人だ。

怖い。

ここを通らなければ部屋に帰れない。

どうしよう……。

仕方なく一歩踏み出した途端、女がすうっとこちらへ近づいて来る。

歩いていない。

K君はそれを見ないよううつむいたまま女とすれ違った。

見たくないはずなのに体が勝手に振り向いてしまった。

誰もいない。

わっと大声をあげて駆け出した。

フロントに鍵を返すとき、渡り廊下で従業員の女の人とすれ違ったんですけどと言うと、「この時間に残ってる女の従業員はいないよ」と言われた。

渡り廊下で女と出会ったのは、裏山に行ったK君たちだけだった。

廊り女(岐阜県)

K君は専門学校に入った。

去年の夏、その学校のサマーセミナーが岐阜県の高原で行われた。目的地に着いたK君は驚いた。

名前も変わり、外装も変わっていたが、本館と別館をあの妙な渡り廊下が結んでいる。

十年前のあのホテルだった。

その夜、これまた十年前と同じように別館で怪談会が催されることになっていた。

K君はここでの体験を語ろうと部屋を早目に出たが、渡り廊下に出て驚いた。

いまだに電灯がつけられていない。

廊下の暗さに思わず足が止まった。

体の記憶が十年前のあの日に戻った。

どうしようかと前を見ると、渡り廊下の向こうに人が立っている。

女だ。

怖くて動けない。女は立ったままの姿で廊下を滑りはじめた。

足音もなく近づいて来る。

すれ違う寸前、女に顔がないのがわかった。

ゆっくり振り返るとまたもや消えていた。

十年前と同じ体験だった。

一本腕(岐阜県)

怪談会が終わって、学生たちは各自部屋に戻った。

一年の女生徒たちが、部屋で記念写真を撮ることにした。

何枚か撮った時「千手観音をやろう」と、誰かが言った。

「おもしろいね、やろう、やろう」

両手を合わせたNさんの後ろに五人の女子が体を重ねるようにして、ひとつの体から、左右に広げた手だけが見えるように写真を撮った。

数日して、プリントされた一枚の写真を見たNさんは、思わずふたつ折りにしてしまった。

六人が重なり合った千手観音。

右側の手が六本なのに左側の手は七本ある。

一番後ろの左手一本だけがバンザイをしている。

七本目のバンザイをしている手はSちゃんの後ろから伸びていた。

この時一番後ろのSちゃんの背中は壁にピタリとついた。

千手観音やろうなんて言ったからだとケンカになったが、誰が最初にそれを言いだしたのかわからなかった。

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