首を絞める手と追う霊(茨城県 佐白山) | コワイハナシ47

首を絞める手と追う霊(茨城県 佐白山)

佐白山の頂上には、大石内蔵助の銅像の前の道を道なりに進むと到着する。

鈴木さんの体験を聞いて、筆者の僕も向かうことにした。

友人の橋詰さんが運転をしてくれ、その曰くある山に向かった。もし同じような体験をするなら本望だと猛々しい気持ちで出かけたが、それは次第に変わっていく。この辺りに詳しいイッチーさんが同乗した。

これは実際に僕が体験した話である。

「ここの道を上がるとね、急に雰囲気が変わるでしょ?」

稲荷神社あたりから比べると、山に入っていく道が続く。藪に覆われて、家々が見えるが次第に重苦しい雰囲気は否めない。

かなり登ったところ、右側に古びた廃屋がある。これが坂本九さんの実家だった。夕暮れ時で急いでいたので、そこは通りすぎた。

すぐに夕闇はせまってくる。五月のころだったが肌寒くあった。

登り道の真ん中に大岩があった。想像以上に大きい。

この岩がここに攻めてきた敵兵を押しつぶし、生き埋めになったと史実にあるが、確かにこの何トンという岩を動かすことは不可能に思う。

そうなると、周りはアスファルトで固めた道路だが、その下は苔むす屍か土と化した肉片と骨か。

その岩の前で橋詰さんが車を止めた。

「降りてみますか」

三人は降り立つと、僕はその坂道の勾配が思った以上にあるな、と感じた。見た目はなだらかな上り坂なのだが、地に足を付けると、少し上がっただけで息が上がる。心臓が悪いわけでもないのに、呼吸が乱れる。

「うわあ、圧がすごいな、空気が違う」

イッチーさんと橋詰さんは降りた瞬間、岩を見てクラクラしたそうだ。

その日はよく晴れた日だったにもかかわらず、やけに湿度を感じた。

急に首が重くなる。息苦しい。

岩より上の坂道まで上がり、岩をバックに自撮りをした。霊気があると顔が曲がって映るという特徴が僕にはある。

いやに長細い顔で映っていた。時空がひずんでいる。霊気が尋常じゃない。

その坂のすぐ上に千人溜り駐車場がある。

木々に覆われ、広さはあるが四方を撮るとどこも白い霊気が写る。

ここに車を置いて、頂上の方の道を行くときに、一人の普段着の女性をみかけた。

こんな時間にも山登りする人がいるもんだなと三人で通り過ぎた。

しかし、三人とも振り向いたらもう女性はいなかった。

かなり広い駐車場なので、降りるならものすごいスピードで走らないと無理だと思う。まずそこでイッチーさんが呟いた。

「今の、人じゃないですよね」

ゾクゾクと背中に寒気が走るが、まだこの先の山道があるので、僕は何も言わずに先を急いだ。

全体的に湿度が高い。湧き水がチョロチョロと道の横を流れる。

こうした山は、岡山県の津山事件が起きた美作加茂にある貝尾集落がこんな雰囲気だったと感じた。

山の中に集落があると、こんな感じになるんだろう。

道や山肌のどこからも水が流れ、絶望的な湿度感に襲われる。

これだけの水が多い山に、木で作られた城や天守閣を置くなら、相当いたみが激しくなるだろう。

そして土と太い枝で作られた、いかにも山道といった急な階段を上がる。

「リンリンリン」

鈴の音が聞こえた。

振り向くと、夕暮れというのにサングラスをかけた背の低いおじさんがリュックをしょって三人についてきていた。正直、気味が悪い。

僕はよけて、鈴のおじさんを先に行かせた。

「ひっ」

一瞬だが、そのおじさんが熊鈴のように鈴を鳴らしながら追い抜いていった。

異様に背が低い。山登り用なのか、杖をついていた。

舗装されていない道が続き、石の階段は滑るように傾斜があり、これが戦国大名たちが工夫した防御のための作りなのかと感じる。

登ろうとするが、靴底が滑れば、あっという間に下に落ちるだろう。

枝木を握りながら急斜面を上がる。

登り出たところに笠間城の跡地が広がっていた。あたりは単なる野原で、ここだけが傾斜がない分、居城跡であったことがわかる。

ただ何もない芝生の広場、ここに立つ天守閣目指して幾多の命が落とされたのだろうか。

夏草や 兵どもが夢の跡

脳裏に芭蕉の句が浮かんだ。

何人もの城主が変わった、ある意味事故物件だろう。

大島てるサイトに笠間城の物件の表示があるとしたら、何千人死亡しているのかと思う。

頂上からの眺めは、平野が広がる笠間や遠くまで見渡せる最高のものだった。標高は割と高いわけだから当たり前だが、気軽に登れる雰囲気がある。

しかし入ってみると湿度というか常に頭痛がするような感じだった。

ここで城主が長続きしないのは、この環境のような気もした。

少し降りて、トンネルの方へ向かう。ここで急に夕闇が迫った。

「このトンネル行きますか?」

暗さが半端ではない。湿った落ち葉だらけの道の先のトンネルは歩いて通る程度。どうしても足が前に進まない。

「この先の井戸、眺めると死ぬっていうんですが、その先の池のほうが言っちゃあイケナイところですよ……僕も子どものころ来たばかりですけど、昔はここも車が通れて、このトンネルでクラクション鳴らすと、死ぬって言ってね。肝試しやりたい免許取りたての連中が来てたそうです。本当に帰りに事故にあったりと、いろいろありましてね」

イッチーさんは、詳しく説明してくれた。

橋詰さんのほうは、まさかこんな心霊スポットに行く羽目になるとは、という表情で僕を見て言った。

「行くんですか? 僕はちょっと……行かなくてもいいかな、ハハ……」

僕は総合的に判断して、真っ暗になると余計危険だと思い、

「これ以上はやめましょう。そのトンネルをくぐると、変なものが憑りつく可能性が高い。ここで引き返しましょう」

「ああよかった、行こうって一銀さんが言い出したらどうしようかと思いましたよ」

「僕もですよ、絶対進んだら帰りの運転保証できないっす」

二人がそう言って、トンネルやその周りの写真を撮影し、駐車場に向かった。

三人が横並びにトンネルに背を向けて歩き出したときだった。

「今、ついてきてますよね」

そう言われ、後ろに誰かがいる気配を感じた。

「一銀さん、誰かが着いてきてるの、わかりますよね」

イッチーさんがやや興奮気味に言った。

濡れ落ち葉だから、誰かがついてくれば足音がするはずだ。

足音はなかった。

ただ、完全に人の気配がする。三人の真後ろについてきているのだ。

「男性……みたいですよね、わかりますよね?」

自分より背の高い人がついてきている、なぜかそう感じた。

「そうですか? じゃあ背中たたきますよ!」

僕はイッチーさんの背中を思い切りたたいた。こうして怖がる人間がいると、それに霊がくっついてしまう。

霊は背中に憑りつくので、必ず背中をたたいてあげる。もちろん自分の背中をたたいたり、見えない後ろに対して肘鉄したりする。

そしてもう真っ暗で何もみえなくなりそうな山道を下った。その間中イッチーさんとたわいもない会話を続けた。

僕の声は鈴を鳴らしたような効果音が混じっているらしく、高い。

声を放つと邪気や悪霊が去るのだというから、声を出すといいという。

そして首に下げていた十字架のネックレスも、こうした場所に行くときは外さない。

千人溜り駐車場に着いた。ここで千人の軍勢が亡くなったと言われる古戦場跡が駐車場なのだ。今更そのいわれを思い出すと不気味さが募る。

「あれ、車が開かない」

遠隔操作で停めた車のドアを開けたはずが、近づくと閉まっていた。

何度かリモコンを操作して開いたが、こんな不具合は初めてだと橋詰さんは言った。

この車に乗ってここを去るまで、ずっと首のしびれや頭痛がひかなかった。

「この山自体が、人間が生き抜けるところじゃないんじゃないか、磁場が強すぎるというか、物理的に苦しい土壌がある気がする」

と僕は科学的な判断をしようとしたが、そうはいかなかった。

ブログに写真を載せたら、友人から連絡がきた。その友人は霊視ができる。

「海生さん、この岩の前で撮った写真、これ良くないよ。怖いかもしれないが、首に手がかかってる。息苦しくなかったか?」

「いやあ、ここから上がった先ずっと息苦しいし、首が重いんだよね」

と、ネックレスを見ると下げていた十字架の根元が取れた。

「十字架が取れた。取れるような作りじゃないのに」

「そうそう、その十字架がよくないと思う。それに岩の前で立ちはだかって映ってるよね。これもよくない。霊気がある被写体は横に写るかしないと、前に立っちゃうとダメだ。あまりいい手じゃないよ。首を絞めてるのは、そのクロスが黒板を爪でひっかくようなキイイイって音を霊たちに聞かせてるくらいの嫌なものなんだって思ってね」

僕はクリスチャンじゃないが、曾祖母が敬虔なクリスチャンだったので、何か守ろうと思うときに十字架のネックレスを下げている。しかし、佐白山での戦闘で、クリスチャン信仰を嫌う兵が死んでいたとしたら、それは目につくいやなものかも知れぬ。

「あと、トンネルに完全に数体の霊が張り付いてる。トンネルの横に女性、そしてその前に、リュックをしょった男性がいるよ、中年の」

「えっリュックをしょった?」

僕が写真を見ても、そうした霊がいるのは全くわからない。

「旅行者みたいな恰好してるね、この人が『トンネルに行くな』って言っている。中には入れなかったでしょう?」

「その通り、なんか不気味すぎてそこから帰ったんだよね」

「それが正解だね、だけどこの人、しばらく海生さんたちに憑いてきたよね?」

それ以上は、切れたクロスを握りながら答えることができなかった。

彼には完全に霊が見えているようだった。

後日、イッチーさんから、頂上に登る橋詰さんの後ろ姿の写真が送られた。

「かなりの霊が写っちゃってますね、特に彼の背中に」

それは肉眼でも見えるほど、丸いもやがかかった写真だった。

「あの時は二人が怖がるんでやめたんですけど、あの鈴を鳴らしてたリュックしょった人、あれも生きた人じゃなかったですね」

「えっなんでわかるんですか?」

「だって、あの先は行き止まりだから、必ずあのルートで戻るはずなのに、戻ってこなかったじゃないですか。野宿できるような山じゃないですしね」

一体何人の霊に会ってしまったのか……

「あと、トンネルで憑いてきたのは、違う男の人でしたけどね」

慣れたようにイッチーさんは笑顔で言った。

「でもよかったですよ。あのとき一銀さんがトンネル抜けようって言ったら、僕もう帰りますって言おうと思ってました。池なんか行ったら完全に憑りつかれますからね」

僕もあのトンネルは鬼門、結界に見えたし『絶対に行くな』という強い意志のようなものが背中に降り立った感覚があった。

僕の曾祖母は迫害を受けていたクリスチャンで、十字架を僕がつけていたことからしても、『行くんじゃない、そこは危ない』と告げにきて、身代わりに根元から折れたのかもしれない、と思った。

不思議なもので、何度か笠間を訪れたが、みんな千人溜り駐車場で体調を崩すようで、その後天守閣跡の山頂まで、もちろんトンネルなども行けていない。

行ってはいけない場所なんだろう。

後から天守閣跡の草原の写真を見ると、どれも霧がかかっているように、白く写っていた。霧などなかったのに。

ちなみに、橋詰さんは次の月に車を買い替えた。

特に理由はないそうだが、不具合が起きたあの車と、橋詰さんの背中についていた心霊の写真を思うと、乗り換えて正解だと思う。

「たまたまですよ。買いかえる気全然なかったんですけど、ディーラーの前を通ったら、急にほしくなってね。別に前のあの車に不具合はないですよ、千人溜りの駐車場の時くらいかな? 異変は。まあ、古かったんで廃車になってるんじゃないかな」

と、笑顔で答えた。日本車から新車の外車に乗り換えたそうだ。

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