人を轢く(宮城県仙台市) | コワイハナシ47

人を轢く(宮城県仙台市)

――人を轢いてしまいました。場所は……。

一一〇番に寄せられた通報を元に、県警本部から指令が入る。

「またか」署員からはため息が漏れた。行かない訳にはいかないが、どうにも腰が重い。

ある時期を境に、その警察署には同じような通報が寄せられるようになった。

そこまではほぼまっすぐに進んできた県道が、地下を掘り下げたトンネルに入ると同時にぐにゃりと大きくカーブする。四角い箱の中を、白い照明灯が点々と照らす。

夜中。車を走らせていると、目前に人が落ちてくる。或いは突然、車道に人が立つ。

センターポールの並ぶ、片側一車線。脇には鉄柵越しに歩道が続く。

当然、急には避けられない。大きな衝撃。ガシャンと鈍い音。

――やってしまった。トンネル出口に車を駐めて、震えるその手で通報する。

パトカーが、事故処理車がやってくる。ドライバーを取り囲み、事情聴取が始まる。

けれども。路面にはブレーキ痕こそあれ、血の一滴も落ちていないのだ。

「何かの見間違い、ということはありませんか」分かっていても、訊かざるを得ない。

――そんなはずはありません、だって、ほら。

顔面蒼白のドライバーが指さす先、ハザードランプを灯した車のフロントガラスにヒビが入っている。或いはボンネットが凹み、フロントライトが割れている。

物理が、何かとの衝突を物語っている。こうなると、嫌でも捜索せざるを得ない。

トンネルを端から端まで辿ってみる。入り口付近の草もかき分け、探してみる。

けれどもそこには、人は当然のこと、小動物の死体一つないのだという。

「あそこはさ。津波のとき、完全に水没してる訳よ。周りから御遺体が流れ込んで。何体も何体も出てきたよ。排水するまで、トンネルの中を漂ってたんだろうな」

仙台近郊、沿岸部某市勤務の警察署員から聞いた話である。

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