あしおと(宮城県仙台市) | コワイハナシ47

あしおと(宮城県仙台市)

仙台の繁華街・国分町で働く柴田さんの家には、「出る」という。

彼女は仕事を終えると、食材を買って帰宅するのが常である。時刻は、深夜の二時から三時頃。階段を上がり、薄暗い廊下を行き、鉄の扉を開ける。

蛍光灯に照らし出される、フローリング敷きのワンルーム。

テーブルの上にビニール袋を置いて、彼女は廊下に面した窓の下にある台所に立つ。

そうして、夕食と呼ぶには些か遅過ぎる食事を作っていると、

――とたとたとたとたとた。

と足音が通り過ぎるのだ。柴田さんの背後を、左から右へ。

幼な子と思しき、軽やかな音。

一日に一度、それは起きるという。

勿論全ての住人を知っている訳ではないけれど、と彼女は言った。

「うちのマンションには子供連れなんていないと思うの。もしいたとしても、一日に一回だけ、それも夜中にしか足音が聞こえないのはおかしいでしょう?」

だからあの子は、幽霊。そう言った。

そんなある日のこと。

柴田さんはいつも通り、仕事を終えて、夕食を作っていた。

ああ、そろそろあの子が通る頃合いだ。

そう思ったとき。

どん!ばん!どん!ばん!

分厚い漫画雑誌を思いきり床に叩きつけるような音。

驚き、口からこぼれそうになる悲鳴を、必死でこらえる。

包丁を持つ手に、力が入る。

どんどんどん!ばんばんばん!

柴田さんのすぐ後ろのフローリング床を、力強く何かが叩いている。

地団駄を踏んでいるようだ、と思った柴田さんは、あることに気付いてそっと俯いた。

彼女の目の前には、窓ガラスがある。

外は真っ暗。こちらには電気が灯る。

ということは、顔を上げたままでは自分の後ろにいる「何か」が見えてしまうのではないか。そう思ったからだと言う。

どん!ばん!どん!ばん!

それは己の存在をアピールするかの如く、続いている。

そして彼女は見てしまったのだ。

俯いた自分の視界のその隅の。

青茶けた、それでいて隆々とした、見るからに大人の男の足が二本。

何かを急かすように、踏み鳴らす様を。

どんどんどん!ばんばんばん!

何をすることもできず、ぎゅっと目を瞑り、ただ時間が過ぎるのを待つほかない彼女の耳を、その音はしばらくえぐり続けたと言う。

で、そのマンションからは引っ越したのですか?私は問うた。

「ううん。そのまま住んでるの。特に何か害がある訳でもないし。足音?今でも聞こえるわよ。一日一回、子供が走るの」

でね。たまにね。やっぱりあの男も来るの。

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