ナッちゃん(宮城県仙台市) | コワイハナシ47

ナッちゃん(宮城県仙台市)

仙台市在住の根古田さんが、女子高生時代に体験した話である。

夏休みも終盤に差し掛かったある日。

彼女が所属する美術部は合宿に行くことになった。

向かったのは宮城県北部、三陸沿岸のとある町。

二泊三日の行程で民宿に泊まりこみ、スケッチの練習に勤しんだ。

帰仙を翌日に控えた夜。

根古田さんを含む三人は、寄せ合った布団に寝転がって怪談に興じていた。

襖を外して続き間にした隣室では、オカルトに無関心な友人たちが悪趣味だと文句を言っていたが、そんなことは気にしない。

薄暗い豆電球の下、自分の体験談から、真偽不明の都市伝説まで持ち寄って、話に花を咲かせていた。

二十三時を過ぎた頃だっただろうか。隣室からは寝息が聞こえている。

――でね、そのとき、顔を上げると……。

ミッちゃんの語りが、突然止まった。

話は佳境だ。どんな顔だったというのか。いったい――。

ミッちゃんは先ほどまでと寸分変わらぬ姿勢のまま、寝落ちしていた。

まるで時を止めたかのように、口をぽかんと開けたまま。

余りのおかしさに、根古田さんはナッちゃんに呼び掛けた。

急に黙ったと思ったら、ねえ見てよ、ミッちゃんのこの顔。

しかし、ナッちゃんからも返事がない。

まさか二人とも寝てしまったというのか。私を置いて。

――ぐすん。くすん。

湿り気を帯びた声が、根古田さんの耳朶に触れた。

――寒い……暗い……寒い……暗い……。

ナッちゃんが、か細い声で何か言っている。

――誰もいないの?私の子供はどこへ行ったの?

ナッちゃんの声なのに。ナッちゃんではない。

いつも使っている言葉ではない。話し方も違うことに根古田さんは気が付いた。

根古田さんは自他ともに認める、所謂〈零感〉である。

霊感など全くなく、故に不穏な空気も何も感じない。

けれども、ナッちゃんは確かにおかしくなってしまった。

場の雰囲気に合わせて変な真似をしたり、嘘を吐いたりする子ではないのだ。

「私の中に何か入ってきたの」「説得して追い出してもらいたいの」

ナッちゃんは時折、〈ナッちゃん〉に戻った。

そして、涙ながらに訴えた。

しかしその願いを聞き届けられるのは、今や根古田さんただ一人なのである。

――暗くて何も見えないのです。どちらが前かも分からないのです。

――私の子供が、見つからないのです。

「彼女」は心細げに呟いた。子と離れ、暗闇の中を彷徨っているらしい。

根古田さんは必死で励ました。

前へ。光を目指して。子はきっと見つかる。さあ、前へ。

不思議と、「彼女」のことは怖くなかった。むしろ、気の毒であった。

けれども、このままナッちゃんが元に戻らなかったらどうしよう。

親御さんに、何と言って謝れば良いのだろう。

朝までこのままだったら、やはりお祓いに行くべきだろうか。

どこで祓ってくれるのだろう。それでも元に戻らなかったらどうしよう。

根古田さんにとっては、それが不安で仕方がなかった。

――小さな明かりが、見えてきました。

二時間近く、「彼女」を励まし続けただろうか。

それは「彼女」にとっても、根古田さん自身にとっても希望の明かりであった。

もう少し。あと少し。根古田さんは最後の力を振り絞って励まし続けた。

――ああ、暖かい。

それが最後の言葉であった。「彼女」は遂に辿り着いたのだろう。

「彼女」は姿を消し、ナッちゃんは戻ってきた。

根古田さんとナッちゃんは、疲れ果てて眠りに就いた。

「彼女」の正体は分からない。

そういえば、「彼女」の話した言葉は、この土地の方言ではなかった。

余所から流されてきた魂なのだろうか、と根古田さんは語った。

ところで、本当に怖かったのは――根古田さんは、こう付け加えた。

「隣の部屋の子たちなんです」

彼女たち、実はあのとき全員起きてたんです。

怖いから、関わりたくないから布団かぶって寝たふりをしていたみたい。

同じ部活でも、女子の友情なんてそんなもんなんだな、って思いました。

シェアする

フォローする