変なものを見た、と石川県に住んでいる友人から電話を受けた。
朝、Nさんはいつもの電車に乗っていた。
鉄道は単線なので、途中の駅で十五分ほど対向列車の通過待ちをする。その時のことだ。
ドアの窓から、いつも見える似たようなふたつの四階建てのビルを見ていて、ふと気がついた。一方のビルにはテナントがたくさん入っていて、店舗や事務所の看板がビルにいっぱいあるのに、隣に建っているビルは四階に進学塾が入っているだけで、あとはガラ空きなのだ。
この差はなんだろうと考えていると、進学塾のビルの屋上にある妙なものに目が留まった。
屋上といっても三角屋根のような造りになっていて、そこに竹が一本斜めに立っている。
その先に黒くて糸みたいなものがいっぱいからんでいて、まるで黒い綿あめのように見える。
それが風にあおられて揺れている。
あれはなんだろう?
やがて、列車が動き出した。
だんだんと、そのビルに近づいていくと黒い糸の塊がよく見え出した。
その時強風に煽れた黒い綿あめがくるりとこちらを向いた。
女の首が長い竹竿の先に突き刺さっている。
列車がスピードをあげて遠ざかると、見えなくなった。
他の人にも見えているのだろうか?後ろのドアに立つ人がガラスに張りつくようにして後方を見ている。
帰宅の時にも確かめてみたが、暗くてなにも見えない。
次の日の朝も同じ列車でそのビルを見たが、二度と同じものを見ることはなかった。
やがて塾もなくなり空きビルになった。
隣のビルは相変わらず満室だという。