函館で雑貨店を営んでいるHさんの話。
今の店を開く時だった。
新しいベッドが欲しかったが、資金をすべて改装などに充てたために諦めていた。
その話を聞いて、リサイクルショップに勤める友人がシングルベッドをプレゼントしてくれた。
中古とはいえ状態が良かったので、とても気に入った。早速新しいシーツを敷いて眠りについた。
ところが妙に寝つけない。最近まで他人が使っていたから馴染めないのだろうと思っていた。
そうではなかった。
耳をすますと部屋のどこからか寝息が聞こえてくる。
気のせいだと思うようにしたが、昨日までこんなことはなかった。
起き上がって灯りをつけたが誰もいない。
ひとり暮らしだから当たり前か……、と横になる。
再び寝息が聞こえ出す。
枕を足元に置いて逆さまに寝ることにした。
耳元で大きくすうすうと寝息がはじまった。
女の人だ。
枕を元に戻して、小さい寝息は我慢して寝ることにした。
寝息だけなら無視すればなんとかなると思ったからだ。
やがて秋を迎える頃にはなにもなくなった。
これで大丈夫と安心して一年経ったある日、また寝息がはじまった。
三年も使っているうちに、これは八月にだけ寝息のするベッドだ、と気がついた。
わかれば怖くないと、今も使っているという。
今年で七年目。もうすぐ寝息の八月です、と笑っていた。