毎年夏になるとMさんは、お母さんと夜の高野山で奥の院のお参りをした。
はじめてのお参りの時の話。
参道へ行く途中に小川のせせらぎが流れている。
その小川を渡ろうとして、はっと足が止まった。
前に見える森の闇に、三人立っている。
足元すら危うい夜の闇に、その三人だけがはっきり見える。
ひとりは首がない。ひとりは右腕がない。もうひとりは黒い体の中に骨が見えている。
幼いながらも、変な形の人だと思って目をこらした。
そこに、奥の院帰りのお坊さんが通りかかった。
森の闇をじっと見つめるMさんに気づいてお嬢ちゃん、なにか見えるんかと話しかけてきた。
「あそこにな、三人立ってるねん」
お坊さんは顔色をかえるとちょっとお嬢ちゃんこっち来なさい。お母さんもどうぞ、こちらへと、庫裏に通された。
「どんな恰好や。絵に描けるか?」
「うん」とMさんは、見たとおりに三人を描いた。
母が出来上がっていく絵を見ながら、お侍?鎧?武者なの、とつぶやいた。
お坊さんたちの様子を見ていると、私が見たものは本当にそこにいるんだ、と思った。